女性労働関係 平成18年度 起業に関する現状及び意識に関する調査

I アンケート実施の概要

1.目的

 女性の働き方の選択肢の一つとして「起業」に関する関心は高まっているとともに、平成17年12月に政府が取りまとめた「女性の再チャレンジ支援プラン」においても、女性の再チャレンジのための選択肢の一つとして起業が特記されています。
 この調査は、起業後間もない企業の経営者を対象に、起業の実態や起業に関する意識を把握し、女性が「雇われない」又は「雇う」側になって働く上での阻害要因及びそれを解消するために希望する支援等を明らかにすることにより、女性が多様なスタイルで生涯を通じて働き続けられる環境整備の参考に資することを目的としています。

2. 調査対象

設立・創業5年以内で従業員10名以下の法人・個人事業所の20,064社の経営者・事業主

3. 調査実施時期

平成18年11月

4.調査方法

通信調査

5.有効回収数及び回収率
回収数2,700
回収率13.5%
内訳事業者  女性   224(うち起業者154)
      男性 2,453(うち起業者2,009)
      性別不明  23(うち起業者の性別不明15)
6.調査実施機関

財団法人21世紀職業財団

Ⅱ アンケート結果の概要

1.事業者、起業者の属性に関すること

(1)経営者になった経緯

 アンケート回答者2,700人の「経営者」になった経緯をみると、「自ら起業した(複数人で起業した場合を含む-以下同じ)」が79.6%とこのアンケートの回答者は8割が自ら起業した者である。自ら起業以外の経緯は「子会社や関連会社の代表として親会社から任命された」(8.3%)、「親や配偶者等から引き継いだ」(4.6%)、「社内で昇格したり、外部から招聘された」(1.6%)、「フランチャイズチェーン加盟の店舗等を開業した」(1.1%)である。
男女別にみると、男性では「自ら起業した」が80.8%と8割を超えているのに対し、女性では67.0%と13.8%ポイント低い。男性に比べ女性の割合が高いのは、「親や配偶者から引き継いだ」(10.3%)と「子会社や関連会社の代表として親会社等から任命された」(10.3%)である。特に、「親や配偶者から引き継いだ」とする割合が男性に比べ6.3%ポイント高い。(第1図)


(2) 事業者と起業者

  この調査は起業して間もない(おおむね5年以内)事業所の経営者・事業主を対象に実施したものであるが、本報告書では、アンケートに回答した者全てを「事業者」(合計 2,700人、女性 224人、男性 2,453人、性別不明 23人)とし、そのうち、「自ら起業した」又は「フランチャイズチェーン加盟の店舗等を開業した」者(合計 2,178人、女性 154人、男性 2,009人、性別不明15人)を「起業者」とした。分析は「起業者」を中心に行なった。
「起業者」のうち98.6%が「自ら起業した」者で、「フランチャイズチェーンの加盟の店舗等を開業」した者は1.4%に過ぎず、男女別にみても、年齢階級別にみてもほとんど差はみられない。ただし、女性の「35~44歳」層で「フランチャイズチェーン加盟の店舗等を開業」した割合が4.1%とわずかに高い。(第1-2表)


(3) 年齢構成

 起業者の年齢構成は、「55歳以上」が34.5%。ついで、「45~54歳」が31.2%、「35~44歳」が23.0%、「25~34歳」が7.1%と34歳以下の若年層は1割弱で、「45歳以上」が6割強を占める。
男女別にみると、女性は「35~44歳」層が31.8%、ついで「45~54歳」層が29.9%、「55歳以上」が22.7%である。男性は「55歳以上」が35.1%と最もその割合が高く、ついで「45~54歳」層(31.4%)で、起業者を年齢階層別にみると、男性では年齢の高い層の割合が高くなっている。
平均年齢でみると女性が46.9歳、男性は50.0歳となっている。
(第2図、第1-3表)


(4) 学歴構成

 起業者の学歴構成は、「大学卒」が45.9%、ついで「高校卒」が34.8%となっている。
男女別にみると、女性は「大学卒」が34.4%と最も高く、ついで「高校卒」が26.6%となっている。女性と同様男性でも、「大学卒」が46.8%と最も高く、ついで「高校卒」が35.3%となっている。男性に比べ女性では「短大卒」(16.9%)と「専修・各種学校卒」(10.4%)の割合が高い。(第1-4表)

(5) 配偶者の状況

 「配偶者あり」は86.9%、「死別・離別によりいない」が6.7%、「もともといない」が5.7%となっている。
男女別にみると、男性は「配偶者有り」の割合が89.0%と高いのに対し、女性は59.7%と男性に比べその割合が低い。また、女性は「死別・離別によりいない」が24.0%と男性(5.3%)に比べ高い。「もともといない」とする割合も女性の方が14.3%と男性(5.1%)より9.2%ポイント高い。(第3図)
年齢階級別にみると、男性では「配偶者あり」は年齢階級が高くなるに従いその割合が高く、女性では「死別・離別によりいない」とする割合が年齢階級が高くなるに従い増加し、「55歳以上」層では40.0%となっている。また、「もともといない」とする割合は男女とも「25~34歳」層で高いが、女性(38.5%)の方が男性(23.9%)より14.6%ポイント高い。
(第1-5表)

(6) 子どもの状況

 「子どもあり」は82.8%、「子どもなし」は16.7%である。「子どもあり」の末子の状況は、「就学前の子」がいる者は16.4%、「小学生」が15.4%、「中学生」が6.9%、「高校生以上」が60.1%となっている。
男女別にみると、「子どもあり」は男性が83.7%あるのに対し女性は69.5%と、女性の方が14.2%ポイント低い。
(第4図、第1-6表)

(7) 身近に自営業や起業した者の有無

身近に事業者のモデルとなる自営業や起業した者がいるかどうかをみると(複数回答)、「いた」とする割合が77.3%と高く「いなかった」は22.5%となっている。そのうち、身近にいた人はどのような人かを見ると「友人・知人」が58.8%と最も高い割合となっている。ついで「会社の同僚・上司」(32.4%)、「親」(30.8%)の順である。
男女別にみると、男女とも「いた」とする割合が8割弱と高く、男女とも身近にいた事業者のモデルは「友人・知人」とする割合が最も高い(女性44.8%、男性59.8%)。女性は男性に比べ「配偶者」(24.1%)、「親」(44.0%)とする割合がそれぞれ22.0%ポイント、14.1%ポイント高い。一方、男性では「友人・知人」(59.8%)、「会社の同僚・上司」(33.2%)とそれぞれ15.0%ポイント、11.6%ポイント女性に比べ高くなっている。(第5図)
年齢階級別にみると、女性では年齢階級の低い層ほどモデルは「親」、「会社の同僚・上司」とする者の割合が高い。男性では年齢階級の低い層ほどモデルを「親」とする者の割合が高いが、「友人・知人」、「会社の同僚・上司」をモデルとする者の割合は年齢階級では差はみられない。(第1-7表)

2.起業者の事業の状況

(1) 産業別の状況

起業者の産業別の起業分野をみると、「サービス業(企業、官公庁を主な顧客とするもの)」が(11.8%)、「サービス業(一般消費者を主な顧客とするもの)」(11.2%)であり、サービス分野が合わせて23.0%と最も高い割合となっている。ついで、「建設業」(16.6%)、「卸売業」(14.3%)の順となっている。
男女別にみると、女性では「サービス業」(一般消費者を主な顧客とするもの(18.8%)、企業・官公庁を主な顧客とするもの(14.3%))が33.1%と最も高い割合となっている。ついで、「小売業」(13.0%)である。男性においても「サービス業(一般消費者を主な顧客とするもの)」が10.7%、「サービス業(企業、官公庁を主な顧客とするもの)」が11.7%であり、合わせて22.4%と女性同様最も高い割合となる。ついで、「建設業」(17.1%)、「卸売業」(14.5%)となっている。(第2-1表)


(2) 従業員数の状況

現在の起業者自身を除いた平均従業員数は8.1人で、女性起業者の平均従業員数は8.1人、男性起業者は8.2人である。
男女別にみると、女性起業者では女性の従業員が4.6人、男性の従業員が3.5人で、男性起業者の場合は女性の従業員が3.3人、男性の従業員が4.8人で、女性の起業者は男性より女性従業員の方が多く、男性起業者の場合は女性より男性従業員の方が多い。
従業員数は、男女別年齢階級別に見ても差はほとんどみられない。(第2-2表)


(3)常勤役員、正社員、非正社員の状況

常勤役員、正社員、非正社員別に平均従業員数を男女別にみると、女性起業者では男女の常勤役員の数が同程度の人数(男性常勤役員0.6人、女性常勤役員0.5人)であるのに対し、男性起業家では女性の常勤役員(0.3人)は男性常勤役員(1.0人)より少ない。また、正社員と非正社員の人数を比べると、女性起業家ではわずかではあるが正社員(3.6人)の方が非正社員(3.4人)より多いのに対し、男性起業家では非正社員(3.5人)の方が正社員(3.3人)をわずかに上回っている。(第2-2表)


(4)事業開始時における資本金の状況

事業開始時における資本金は「300万円以上500万円未満」が35.6%と最も割合が高く、ついで「1,000万円以上3,000万円未満」が28.2%となっている。
男女別にみると、男女とも「300万円以上500万円未満」の割合が女性39.0%、男性35.4%と最も高く、ついで「1,000万円以上3,000万円未満」(女性22・7%、男性28.5%)となっている。1,000万円以上の割合は男性が32.7%、女性が25.3%と男性が7.4%ポイント高い。(第6図、第2-3表)


(5)年商

1年間の売上高(年商)は「1億円以上」とする起業者の割合が42.6%と最も高く、ついで「5,000万円~1億円未満」が23.3%となっている。3,000万円以上が78.7%と8割近くを占めている。5,000万円以上でも65.9%を占め、1,000万円未満は6.9%に過ぎない。男女別にみると、男女とも「1億円以上」とする割合が最も高く、女性26.6%に対し、男性43.7%と、男性の方が女性に比べ17.1%ポイント高くなっている。3,000万円以上の割合は女性で64.3%、男性で79.7%となっている。(第7図)年齢階級ごとに年商別起業者の割合をみると、年商「1億円以上」については、どの年齢階級層でも最も高い割合を示しており、「25~34歳」層を除き、どの年齢層も4割を超えている。女性では、「35~44歳」層(28.6%)及び「45~54歳」層(30.4%)は、「1,000万円以上3,000万円未満」が最も割合が高く、「55歳以上」では「5,000万円以上1億円未満」が25.7%と最も高い。男性は、どの年齢階級層においても「1億円以上」が最も高い。(第2-4表)


(6)事業開始時の経営形態

事業開始時の経営形態は「有限会社」が47.0%と最も高く、ついで「株式会社」(38.3%)、「個人事業」(13.2%)となっている。男女別でみても、「有限会社」(女性50.0%、男性46.8%)が約半数を占め、ついで「株式会社」(女性25.3%、男性39.3%)となっている。「有限会社」及び「株式会社」を合わせた法人起業の割合は女性が75.3%、男性は86.1%と男性の法人起業の割合が女性に比べ10.8%ポイント高い。一方、「個人事業」は女性20.8%、男性12.6%で、女性が8.2%ポイント高い。(第2-5表)


(7)現在の経営形態

現在の経営形態は、「株式会社」が48.8%と事業開始時の38.3%に比べると10.5%ポイント増加している。「有限会社」(41.0%)、「個人事業」(8.8%)は事業開始時よりそれぞれ6.0%ポイント、4.4%ポイント減少している。
事業開始時の経営形態から現在の経営形態への変化の状況をみると、「有限会社」から「株式会社」へ、また「個人事業」から「有限会社」に移行した割合はそれぞれ19.5%と23.3%である。男女とも、事業開始時から現在まで経営形態が変わらない者の割合が高いが、事業開始時に「個人事業」であった者は、男性で22・0%、女性で34.4%が「有限会社」に移行している。(第2-6表)


(8)事業規模の変化

事業開始時と比較した現在の事業規模の変化をみると、「拡大している」が
69.0%と最も高い割合を示し、ついで「横ばい」が25.1%で、「縮小している」は5.1%に過ぎない。これについては、男女別にみても、事業開始時期別をみても変わらない。(第2-7表)

3.起業に関する意識等の状況

(1) 起業の準備状況

 起業にあたりどのような準備をしているか(複数回答)をみると、「自己資金の貯蓄」が54.7%、ついで「販路や取引先の開拓につながる人脈づくり」(47.9%)、「事業計画・採算性等の構築」(47.5%)、「金融機関や出資者等からの資金調達」(39.8%)、「既に起業した人やこれから起業する人からの情報収集・交換」(29.2%)となっている。
 男女別にみても、順番は異なるが、上記の5事項が起業の準備として上位を占めている。
なお、男性は女性に比べ「公的な創業支援制度等の申請」「経営実務の習得」の割合が高く、女性は「起業や経営に関するセミナー等の受講」や「起業分野のスキルアップのための訓練・研修・勉強等」の割合が男性より高くなっている。(第8図、第3-1表)

 就業経験の有無別に起業の準備状況をみると、大部分の項目で「就業経験あり」が「就業経験なし」の項目を上回っているが、「就業経験あり」が「就業経験なし」を大きく上回っているのは、「販路や取引先の開拓につながる人脈づくり」(24.2%ポイント)や「事業計画・採算性等の構築」(17.0%ポイント)である。「就業経験なし」が「就業経験あり」を上回っているのは「経営実務(経理・税務等)の習得」(2.0%ポイント差)と「起業分野のスキルアップのための訓練・研修・勉強等」(0.7%ポイント差)となっており、特に、女性では「起業や経営に関するコンサルタント・専門家に相談」が21.2%ポイント高い。(第3-1-2表)


(2) 事業資金の調達状況

 起業にあたりどこから資金を調達しているかをみると(複数回答)、「自己の貯蓄」が82.6%と最も高く、ついで「配偶者、家族、親戚等からの借入・出資」が29.3%と自分を含めた家族や親族内で調達する割合が高い。
男女別では、男女とも「自己の貯蓄」が8割前後と高くなっている。女性が男性より割合が高いのは「配偶者、家族、親戚等からの借入・出資」(3.3%ポイント差)で、それ以外は男性の方が高い。(第9図)
年齢階級別にみると、25~34歳の若年層は他の年齢層と比較して「自己の貯蓄」(71.6%)の割合が低く、「配偶者、家族、親戚等からの借入・出資」(40.6%)の割合が高くなっている。(第3-2表)
開業時の資本金額別に資金調達方法をみると、資本金額の高低に関係なく「自己の貯蓄」と「配偶者、家族、親戚等からの借入・出資」の割合が高いが、資本金額が高額になるにしたがって、「友人・知人」や「民間金融機関」、「その他個人、法人」からの借入や出資による起業者の割合が増加する傾向にある。特に、開業時資本金が3,000万円以上の場合は「民間金融機関からの借入」(32.2%)や「その他、個人・法人からの借入・出資」(34.4%)とする起業者の割合が30%以上と高くなっている。(第3-2-2表)


(3)起業までの準備期間

起業の準備を始めてから実際に起業するまでに要した期間は、「1年未満」が62.8%、ついで「1年以上3年未満」が28.4%となっており、準備期間3年未満とする割合が9割を超え、平均期間は1.03年となっている。
男女別にみても大きな差はなく、平均準備期間でみると女性は0.90年、男性が1.05年と女性の方が短くなっている。(第3-3表)
また、就業中断期間が「1年未満」で起業準備期間が「1年未満」であった者が最も多く、前職を辞めてすぐに起業という者が多い。(第3-3-2表)
注)就業中断期間:起業する前の最後の会社を退職してから起業するまでの期間。


(4)就業経験の有無及びその雇用形態

 起業する以前に「就業経験あり」とする割合は96.1%、「なし」は3.5%である。しかし、男性(3.2%)に比べ女性の方が「就業経験なし」(7.8%)とする割合が高い。特に、「55歳以上」の層では17.1%となっている。
「就業経験あり」の者のうちどのような就業形態で働いていたかをみると、「会社で正社員(管理職)として働いていた」とする者が47.1%と最も高く、ついで、「別の会社等の経営に携わっていた」が29.5%となっている。
男女別にみると、男性は「会社で正社員(管理職)として働いていた」
(48.1%)が最も高い割合を示しているのに対し、女性は「会社で正社員(管理職以外)として働いていた」(32.9%)とする割合が最も高い。また、男性では「別の会社等の経営に携わっていた」、「会社で正社員(管理職)として働いていた」とする割合が女性に比べそれぞれ12.4%ポイント、16.7%ポイント高い。(第3-4表)
女性についてその家族状況による就業経験の有無をみると、「配偶者有、子あり」及び「死離別、子あり」の者の就業経験有りとする割合はそれぞれ87.8%、87.1%で、「配偶者有、子なし」及び「死離別、子なし」の100.0%に比べ低い割合となっており、子の有無が就業経験の有無に影響している。(第3-4-2表)


(5)別の会社の経営に携わっていた者の就業期間

 (4)の「別の会社の経営に携わっていた」者についてどのくらいの期間その経営に携わっていたかをみると、「5年以上」が69.9%を占め、平均期間は11.16年となっている。男女別にみると男性は11.14年、女性は11.41年となっている。(第3-5表)

(6)前の会社の退職理由

 「就業経験有り」の者が、起業する前の最後の会社を退職した理由(複数回答)は「起業のため」が58.1%と最もその割合が高く、ついで「解雇されたため(倒産、リストラ等を含む)」(15.8%)、「仕事内容が適さなかったため」(7.8%)と勤務先との関係を退職理由とする割合が高い。結婚、妊娠・出産・育児、介護、その他家庭の事情といった理由を挙げている割合は3.2%と低い。「定年退職したため」は5.0%である。
男女別にみると、男女とも「起業のため」が5割を超え最も高い。「解雇されたため」は男性(16.2%)が女性(10.0%)より6.2%ポイント高く、「仕事内容が適さなかったため」は女性(9.3%)が男性(7.8%)より1.5%ポイント高い。
また、女性では「結婚のため」(6.4%)、「妊娠・出産・育児のため」(2.9%)、「家族の介護のため」(2.9%)、「その他、家庭の事情のため」(5.7%)という家庭の事情による退職が17.9%と男性(2.2%)を15.7%ポイント上回っている。一方、「定年退職したため」は男性(5.3%)の方が女性(1.4%)より3.9%ポイント高い。(第10図)
年齢階級別に退職理由の割合をみると、「起業のため」は男女とも年齢階級が低い層ほどその割合が高いのに対し、「解雇された」は男性は年齢階級が高くなるほどその割合が高くなっている。(第3-6表)


(7)前の会社を退職してから起業するまでの期間(就業中断期間)

  「就業経験有り」の者について、起業する前の最後の会社を退職してから起業するまでの期間(「就業中断期間」という。以下同じ。)は、「1年未満」が55.4%、ついで「なし」が18.3%である。「なし」を含めると1年未満が7割強を占めている。平均期間は1.0年である。
男女別にみると、平均期間は男性が0.9年、女性は1.8年で、女性の方が前の会社を辞めて起業するまでの期間が長くなっている。特に、女性では年齢階級が高くなるほど平均期間は長くなっており、「55歳以上」の層では4.8年と一番長い。(第3-7表)
また、退職理由別にみると、「起業のため」(平均期間0.86年)、「解雇されたため」(平均期間0.84年)の場合は、前の会社を辞めて起業するまでの平均期間が1年に満たないのに対し、回答数は少ないが「結婚のため」(8.42年)、「妊娠・出産・育児のため」(7.67年)という理由で退職した場合には8年前後と退職してから起業までの期間が長くなっている。
特に、女性の場合は、「結婚のため」(11.04年)や「妊娠・出産・育児のため」(11.46年)により退職した場合は11年を超える数字を示している。(第3-8表)

(8)現在の事業に関連する仕事の経験の有無

「就業経験有り」の者について、起業前に、現在の事業に関連する仕事を経験したことがあるかをみると、「ある」とする割合は85.5%、「ない」は13.9%である。
女性は「ない」(27.9%)の割合が男性(12.8%)に比べ15.1%ポイント高い。
どのくらいの期間その事業に携わっているかをみると、「10年以上」が72.4%と長期に携わっている者の割合が高い。特に、男性(73.5%)ではその割合が女性(52.0%)を21.5%ポイントも上回っている。
平均期間は、女性の10.87年に比べ男性は17.22年と長くなっている。(第3-9表)

4.起業の目的・動機について

(1) 起業に興味を持った年齢

 起業に興味を持ったのは「25~34歳」が23.5%、ついで「35~44歳」が22.5%と半数近くが25歳~44歳に集中している。また、24歳未満も17.4%いる。24歳未満で起業に興味を持った割合が、男性(17.9%)は女性(11.0%)より6.9%ポイント高い。
 起業に興味を持った平均年齢は36.4歳で、女性(36.7歳)と男性(36.3歳)の差はみられない。(第4-1表)

(2) 起業で働く目的

 「起業」で働くことを選んだ目的(3つまで複数回答)は、「自分の能力、技術、経験等を十分に発揮するため」が72.1%と最も高く、ついで「自分の裁量で仕事をするため」(67.5%)、「より多くの収入を得るため」(47.7%)の順となっている。
「自分の能力、技術、経験等を十分に発揮するため」(女性63.6%、男性72.8%)と「自分の裁量で仕事をするため」(女性59.7%、男性68.1%)が男女とも上位2位を占めている。第3位は女性では「年齢や性別に関係なく仕事をするため」(51.3%)、男性では「より多くの収入を得るため」(48.1%)となっている。
 女性の割合が男性を上回っている目的は、「年齢や性別に関係なく仕事をするため」(23.5%ポイント差)、「家事や子育て・介護をしながら、柔軟な働き方をするため」(17.0%ポイント差)となっている。
 男性の割合が女性を上回っている目的は、「自分の能力、技術、経験等を十分に発揮するため」(9.2%ポイント差)、「自分の裁量で仕事をするため」(8.4%ポイント差)となっている。(第11図)
 年齢階級別に起業で働く目的別の起業者割合をみると、「より多くの収入を得るため」、「趣味や特技など、好きなことを職業にするため」、「家事や子育て・介護をしながら、柔軟な働き方をするため」、「働きに応じた成果を得るため」、「成功している起業家から刺激を受けたため」は年齢階級が低い層ほどその割合が高い。(第4-2表)


(3)目的達成の程度

 「起業」という形で働くことを選んだその目的がどの程度達成されているかをその目的別にみると、「家事や子育て・介護をしながら、柔軟な働き方をするため」を除き、各目的とも「ある程度」達成されているとする割合が最も高い。
 「十分」と「ある程度」達成されているとする割合が8割を超えているのは「自分の能力、技術、経験などを十分に発揮するため」と「自分の裁量で仕事をするため」で、それぞれ87.4%と87.1%と目的が達成されているとしている。特に、「自分の裁量で仕事をするため」、「自分の能力、技術、経験などを十分に発揮するため」とも「十分」その目的を達しているとするものがそれぞれ39.0%、30.2%に達している。「されていない」とする割合は1.6%、1.8%に過ぎない。
 ついで、達成度が高いのは、「社会に役立つ仕事をするため」(76.7%)、「働きに応じた成果を得るため」(69.5%)、「年齢や性別に関係なく仕事をするため」(68.0%)も7割前後が達成されているとしている。
 一方、目的達成の程度が低いとするのは、「家事や子育て・介護をしながら、柔軟な働き方をするため」は「十分」と「ある程度」を合わせても30.1%に過ぎず、「されていない」が34.7%と「されていない」とする割合の方が上回っている。
 その他、「多くの収入を得るため」と「趣味や特技など、好きなことを職業にするため」では「されていない」と「どちらともいえない」とする評価が3割強となっている。(第4-3表)
目的達成度が高い「自分の能力、技術、経験などを十分発揮するため」と「自分の裁量で仕事をするため」では、男女別にみても、年齢階級別にみても大きな差はみられない。
 目的達成度の低い「家事や子育て・介護をしながら、柔軟な働き方をするため」をみると、「十分」及び「ある程度」としているのは女性では62.3%と比較的目的が達成されているのに対し、男性ではその割合が25.2%と低い。また、「されていない」の割合は、男性(37.2%)の方が女性(17.0%)より20.2%ポイントも高い。特に、男性の「55歳以上」の年齢階級では「されていない」とする割合が50.5%と高い。また、女性の「25~34歳」層でも「されていない」とする割合が37.5%と高い。
 女性で「十分」達成されているとする割合が高いのは、「自分の裁量で仕事をするため」(40.2%)、「趣味や特技など、好きなことを職業にするため」(39.3%)である。(第12図、第4-3表)

第12図 目的達成度別割合








(4) 起業に踏み切ったきっかけ

起業に踏み切った直接の原因(複数回答)は「勤務先に対する不安(業績悪化、人員整理等)や不満があったため」(38.1%)、「開業に必要な技術、資格、ノウハウ等を習得できたため」(37.0%)、「ビジネスチャンスやアイデア等を発見したため」(33.3%)がほぼ同じ割合で、ついで、「定年後の第二の人生のため」(14.0%)となっている。(第4-4表)


(5) 事業シーズの獲得方法

 事業とした技術、技能、ノウハウ又はアイデア(事業シーズ)をどのようにして獲得したかをみると、「過去の勤務先での経験」が80.9%と大部分を占めている。
男女別でみても、男性も女性も「過去の勤務先での経験」(女性59.7%、男性82.6%)が多いが、男性は8割以上を占めている。(第4-5表)

5.起業の際・起業後の問題点と満足度について

(1) 起業時の問題点

 起業にあたって問題になったことは(3つまで複数回答)、「開業資金の調達・開業後の資金繰りがうまくいかない」(29.6%)、「仕入先や顧客の確保(顧客開拓、人脈開拓)が進まない」(20.4%)、ついで、「起業や経営の知識・ノウハウが不足」(16.0%)、「人材の確保・育成が出来ない」(15.2%)と事業そのものに関わる問題点を挙げる割合が高い。
 男性も女性も「開業資金の調達・開業後の資金繰りがうまくいかない」が最も高い割合を占めており(女性24.0%、男性30.1%)、どの年齢階級層でみても、本問題点が1位、2位の高い割合を占めているが、男性は次いで「仕入れ先や顧客の確保が進まない」の割合が高い傾向がある。女性は年齢階級別によって様々であるが、25~34歳の年齢層では、「認可・許可などの手続き」、「一人で活動する時間が長く、孤独を感じる」、「特に問題はない」が、他の年齢層と比べ、10%ポイント以上高い。
 また、「家事や育児等との両立が難しい」を問題点としてあげたのは、占める割合は低いが、45~54歳の年齢層だけである。(第13図、第5-1表)


(2) 起業後の問題点

 起業後に問題になったことは(3つまで複数回答)、「人材の確保・育成ができない」(44.7%)、「開業資金の調達・開業後の資金繰りがうまくいかない」(34.8%)、「仕入れ先や顧客の確保(顧客開拓、人脈開拓)が進まない」(24.8%)、「製品やサービスの企画・開発が進まない」(15.2%)となっており、この4点は全て起業前より割合が高くなっている。特に「人材の確保・育成が出来ない」とする割合は起業後の方が29.5%ポイント高くなっている。
 男女別でみても、上記の傾向は変わらないが、女性に特徴的なのは「25~34歳」の層で「家事や育児等との両立が難しい」とする割合が起業時が0%であったのが30.8%となっているのが特徴的である。(第5-2表)

(3) 起業・経営に関する相談相手

 起業や経営に関する悩みや問題があった時、どのような人・機関からのアドバイスが役に立ったか(複数回答)をみると、「知り合いの起業家」が46.2%と最も高い割合を示している。ついで、「弁護士・税理士・中小企業診断士等」の専門家からのアドバイスが33.3%となっている。
 年齢階級層が低いほど「家族や親戚などの身内」「知り合いの起業家」などの身近な人からアドバイスを受ける傾向がある。特に男性にこの傾向が強い。(第5-3表)

(4) 起業時に必要なサービスや支援

 起業の準備をする際、また、起業したての頃に、どのようなサービスや支援があればよいかについては(3つまで複数回答)、「低金利融資制度や税制優遇措置」が72.7%と最も高い。ついで「家賃補助やインキュベーション施設など、ハード面への支援」(33.0%)、「起業家同士が情報交換をしたり刺激を受けたり出来る場」(22.2%)、「先輩起業家や専門家による助言や指導が受けられる相談窓口」(20.8%)となっている。
 男女別にみると、「保育施設や家事支援、介護支援等サービスの拡充」が女性では13.0%と男性の3.0%に比べ高く、特に、女性の「25~34歳」と「35~44歳」の年齢階級ではそれぞれ30.8%、24.5%と高い割合となっている。(第14図、第5-4表)
注)インキュベーション:設立して間がない新企業に国や地方自治体などが、経営技術・金銭・人材などを提供し、育成すること。

(5) 現在必要とするサービスや支援

 現在必要とするサービスや支援(3つまで複数回答)をみると、起業の準備をする際や起業したての頃必要としたサービスや支援と同じく「低金利融資制度や税制優遇措置」が71.6%と最も高い。その他「起業家同士が情報交換をしたり刺激を受けたり出来る場」(20.9%)、「先輩起業家や専門家による助言や指導が受けられる相談窓口」(18.0%)となっている。また、「保育施設や、家事支援、介護支援等サービスの拡充」が女性では18.8%と高い割合となっている。特に、年齢階級別にみて、年齢の低い層においてその割合が高くなっている。(第14図、第5-5表)


(6) 起業前後の不安感の比較

 起業の前と後ではどちらの方が不安感が大きいかをみると「起業後の方がはるかに大きい」(30.2%)が「起業前の方がはるかに大きい」(15.7%)に比べ2倍近い割合を示し、「起業後の方がやや大きい」(19.5%)を合わせると5割近くが起業後の方が不安感が大きいとしている。
 男女別にみると、女性の方が起業後の方が不安感が大きいとする割合が59.1%と男性(49.0%)に比べ10.1%ポイント高い。(第15図、第5-6表)

(7) 現在の働き方についての満足度

 現在必要とするサービスや支援(3つまで複数回答)をみると、起業の準備をする際や起業したての頃必要としたサービスや支援と同じく「低金利融資制度や税制優遇措置」が71.6%と最も高い。その他「起業家同士が情報交換をしたり刺激を受けたり出来る場」(20.9%)、「先輩起業家や専門家による助言や指導が受けられる相談窓口」(18.0%)となっている。また、「保育施設や、家事支援、介護支援等サービスの拡充」が女性では18.8%と高い割合となっている。特に、年齢階級別にみて、年齢の低い層においてその割合が高くなっている。(第14図、第5-5表)

 現在の売上高別に現在の働き方についての満足度をみると、300万円以上の売上高では「満足している」と「ある程度満足している」を合わせるとおおむね7割に達するが、売上高300万円未満の場合は「あまり満足していない」(9.7%)、「まったく満足していない」(22.6%)を合わせた「満足していない」割合が32.3%となっている。(第5-7-2表)

6.今後の事業について

(1)事業の安定的継続ないしは安定的継続を予想できる時期

 起業後、事業がある程度安定的に継続できると確信した時期、又はそのようになると予想する時期を事業を開始してから何年後ぐらいか聞いてみると、その時期は「1年以上3年未満」(28.4%)、「3年以上5年未満」(28.1%)、「5年以上」(23.6%)となっており、平均3.35年となっている。一方で、「見通しが立たない」とする者の割合も15.7%ある。(第17図、第6-1)


 事業の安定的継続又は安定的継続を予想できる時期は、事業開始時期別にみても、その傾向は前述の全体の傾向と変わらないが、事業開始期間が長くなるほど「見通しが立たない」とする者の割合が高くなっている。(第6-1-2表)


(2)今後の事業拡大

 今後、事業拡大を考えているかどうかをみると「考えている」のが69.1%で、その時期は「1年以上5年未満」とする割合が55.2%を占め、平均では2.55年後となっている。事業拡大を「考えていない」とする割合も26.4%ある。特に、女性では「考えていない」が30.5%と男性(26.1%)に比べその割合が高い。特に、男女とも年齢階級が高くなるにしたがって事業拡大を「考えていない」とする割合が増加している。(第18図、第6-2表)


 起業者の事業の産業別に事業拡大の見通しをみると、「事業拡大を考えている」割合が高いのは「情報通信業」(83.6%)、飲食店(79.9%)、製造業(74.5%)である。建設業(36.8%)や医療・福祉(36.5%)では「考えていない」とする割合が高い。(第6-2-2表)


(3)最終目標年間売上高

 1年間の最終目標年間売上高は、72.7%が「1億円以上」であり、ついで、「5000万円以上1億円未満」が12.3%となっている。男女別にみると、男性では73.9%、女性では59.1%が「1億円以上」とし、男性の方が女性に比べ14.8%ポイント高い。(第6-3表)
① 現在の年商と売上最終目標額との比較
 現在の年商と最終売上目標額との差をみると、「最終目標売上高と現在の売上高が同じ」とする割合が50.9%、ついで「最終目標売上高よりも現在の売上高が少ない」が46.8%となっている。
 男女別にみると、女性では「最終目標売上高よりも現在の売上高が少ない」(60.4%)とする割合が高いが、男性は「同じ」(52.0%)とする割合が「少ない」(45.9%)とする割合を6.1%ポイント上回っている。(第6-4表)

7.仕事と家庭の両立について

(1)家庭内の役割の分担状況

 起業者で配偶者有りの者について家事・育児・介護などの家庭内の役割を配偶者等とどのように分担しているか、その分担状況をみると、男性では「配偶者がほとんど行なう」(54.5%)と「配偶者が全て行なう」(18.4%)を合わせると配偶者が主に行なうのは72.9%となっている。「配偶者と折半して行なう」は18.8%である。
 一方、女性についてみると、「自分がほとんど行なう」(47.8%)と「自分自身が全て行なう」(14.1%)と合わせると自分自身が主に行なう割合が61.9%となっている。また、「配偶者と折半して行なう」は21.7%である。「その他(配偶者以外の家族が行なう、外部サービスを活用する)」の割合は9.8%となっている。(第7-1表)
 女性について末子の状況別にみると、就学前の子どものいる場合には、「配偶者と折半して行なう」(42.9%)、「その他(配偶者以外の家族が行なう、外部サービスを活用)」(21.4%)とする割合が高い傾向にある。(第7-1-2表)


(2)女性の就業継続の障害となる点

 女性が働き続けることを困難にしている又は障害となっていることをみると(複数回答)、「家庭で女性が担う家事や育児・介護の負担が大きいこと」が56.5%と最も高い割合を示し、ついで、「仕事をしながら安心して子育てができる施設などが不足」(37.0%)、「仕事を続けたり、事業を経営することに周囲の理解がないこと」(32.5%)、「出産・育児や介護は女性がするもの、という役割分担意識」(31.8%)が3割強となっている。
 年齢階級別にみると、年齢階級が低いほど「家庭で女性が担う家事や育児・介護の負担が大きいこと」とする割合が高い。(第19図、第7-2表)


(3)女性であることによる差別を受けたり、不利と感ずること

 事業者について、起業したり経営をするに当たって、女性であることによる差別を受けたり、女性であることで不利だと感ずることが「あった」とするのは57.1%、ついで、「特になかった」とするのは40.3%である。「あった」とするのはどのような時であったかを(複数回答)みると、「家庭生活と仕事を両立させようとした時に、より負担が大きかった」(48.0%)、「取引先との折衝や、顧客の開拓に際して、女性であることで信用を得にくかった」(43.2%)となっている。(第7-3表)