【随想】
データサイエンスの時代

「今後10年間で最も“セクシー”な職業は、データサイエンティストだ。」 これは、ニューヨークタイムズが2009年に紹介したグーグルのチーフエコノミスト、ハル・ヴァリアン氏の発言です。実はこの時データサイエンティストという言葉は一般的ではなかったらしく、原文ではstatisticianの語が使われていますが、2012年ハーヴァードビジネスレビューで「Data Scientist は21世紀で最もセクシーな仕事」 と改めて紹介され、注目されました。蛇足ながら“セクシー”は最近某政治家が口にして話題となった通り「かっこいい」を意味します。
ヴァリアン氏の発言の記事から10年後の現在、デジタルトランスフォーメーションによる社会変革が急速に進む中、先端のIT知識を持ちデータを扱える人材が様々な産業、企業で引っ張りだこになっています。彼の慧眼に感服するばかりです。
ヴァリアン氏は、上記発言に先立ち別のメディアに対し、「データを理解し、処理し、データから価値を抽出し、可視化し、伝えていくことは、仕事のレベルにおいても、また大学、中等教育、初等教育の各レベルにおいても大変重要である。」と述べ、データサイエンスの知識、能力が人的資源の重要な要素となることを予測しています。そして案の定、今年日本政府が出した「AI戦略2019」を見ると、ビッグデータを通じたAI技術の利活用に関し、従来の延長線上にない破壊的イノベーションが競って生み出される中「我が国は後れを取っている」として、戦略目標の1番目に「AI時代に対応した人材の育成」をあげています。
さて、このような動きの中、どうしたら女性が男性と遜色なくデータサイエンスやAIの技術を実装し、社会課題の克服や産業競争力の向上に貢献していけるかは、大きな関心事です。日本の場合、専攻分野別に大学在学生に占める女性の割合を見ると、工学分野が15.0%(2018年)と、10年前に比べれば多少増加したとはいえ、まだまだ非常に低いレベルです。工学分野の研究者に占める女性の割合も、大学等の研究本務者で11.1%、企業の研究者で5.6%とさらに低い水準にとどまっています。
ただ、これらは女子生徒の理数系科目の学力不足に起因するというよりは、周囲の女子生徒の進学動向、親の意向、ロールモデルの不在等の環境が影響しているとの指摘もあります。社会全体で女性の能力に対するバイアスを払拭し、データサイエンスを含むSTEM分野※での活躍を強力に後押しするべき時が来たともいえます。
ところで、「AI戦略2019」は、学校教育に加え、数理、データサイエンス、AIを育むリカレント教育を多くの社会人に実施することもうたっています。これまで文系人間を自認していた私も、データサイエンスの初歩の初歩である回帰分析の勉強を始めました。自分の中にある「女性は数字に弱い」というバイアスを多少でも修正できればと思います。
※科学・技術・工学・数学の教育分野。
(21世紀職業財団会長 伊岐典子、機関誌「ダイバーシティ21」2019年冬号より)