【随想】
男と女の育児休業

近年、働き方改革や女性活躍の観点からの問題意識も含め、男性の育児休業取得率の低さについての憂慮が深まっています。育児休業法制化からすでに28年ほどが経過してなお6.16%という水準(女性の取得率82.2%)は、7割以上が2週間未満という取得期間の短さ(女性は7割近くが10カ月以上取得)とともに、様々な課題の存在を想起させます。そのため、国家公務員については、2020年度から、子どもが生まれたすべての男性職員が1カ月以上を目途に育児に伴う休暇・休業を取得できることを目指し、取組みが進められることになりました。
現在の育児休業制度は、1990年に議論が本格化し翌年法案成立と、平成の初めにスタートしました。当時はバブル真っ盛り、企業活動を支える働き手の確保の観点から女性の継続就業が求められ、当時の合計特殊出生率の低さも相まって、育児休業法制化の機運が盛り上がりました。地方勤務から労働省(当時)に戻って育児休業法立案チームに配属された私は、日本の働く女性のためになる法律の立案という意義深い仕事に高揚感を覚え、毎日必死に取り組んだものでした。
このように、育児休業の法制化に当たり女性が強く念頭にあったことは事実ですが、法律の規定自身は当初から育児休業の権利を「男女」に与えるものでした。手厚い休業制度が男女に与えられていた北欧の状況や、男女雇用機会均等法の趣旨に照らせば、育児休業の権利を女性だけに与えることは、育児の負担を女性に固定化し、雇用の場での能力発揮を阻害する等の弊害が予想されたからです。一方、この問題を議論した当時の審議会では、使用者側委員から、実態に即し対象労働者は女性に限るべきであるとの強い意見も出されました。結局様々な例外規定などをおいて実質的には男性労働者が育児休業を取りにくい制度にはなりましたが、法律の形は男女が育児に関わりつつ仕事を辞めずにキャリアを継続するための休業取得を確保するものになりました。
その後ワーク・ライフ・バランスについての関心が高まる中で幾多の改正が行われ、現在の法制度は、男性が堂々と育児休業を取ることができる内容になっています。そのうえ「パパママ育休プラス」といった男性が妻と交代で育児休業を取ることを奨励するような制度も組み込まれています。育児休業の意義は時代とともに変容しているといえます。それでも男性の取得が進まない理由は、なかなか変わりにくい固定的役割分担意識や、日本的雇用システムの下で周りと異なる休み方がしにくいといったこともあるのでしょうが、経済合理性の観点から、給料の高い夫よりも妻の休業を選択するという要素がかなり大きいのではないでしょうか。
その意味で、現在育児休業給付の位置づけをより独立性が高いものにし、財源も明確化しようとする雇用保険制度の改革が目指されていることは朗報かもしれません。所得カバー率を高める制度改正がしやすくなり、男性の育児休業取得率の向上につながるかもしれないからです。日本経済の一層の発展につながるような素早い取組みが望まれます。
(21世紀職業財団会長 伊岐典子、機関誌「ダイバーシティ21」2020年春号より)