【随想】

在宅勤務とコミュニケーション


 新型コロナウイルスが社会経済に甚大な影響を及ぼし始めてから数カ月が経過しました。企業活動や働き方を含めて「コロナ以後」の社会には「コロナ前」と大きく異なる 「ニューノーマル」(新常態・常識)が生まれるとも言われ、「新しい生活様式」が求められています。中でも在宅勤務については、これまでなかなか進まなかった日本でも、急速に普及が進むとの期待がふくらんでいます。

 21世紀職業財団でも以前から在宅勤務の制度があり、利用する職員は一定数いました。ところが、政府の緊急事態宣言が出される少し前から「原則在宅勤務」の体制をとることにしたところ、これまでの財団の制度が「在宅での勤務で十分に能力を発揮する」ような仕組みになっていないことに気づきました。特に会議や打ち合わせについては、フェーストゥーフェースを前提とする意識が強く、オンラインツールを積極的に活用できていませんでした。今回、日本の多くの企業が必要に迫られて在宅勤務を導入、拡大する中で、有効なツールの選択や、その運用に苦労されていると思います。

 さて、財団内でWEB会議による意思決定のプロセスを踏む回数が増え、企業の社外役員としても電話会議やWEB会議による取締役会に出席するようになって気がついたのが、このような新しい会議や意見交換のシステムを利用する場合におけるコミュニケーションの変化です。そこには、良い面もあればそうでない面もありそうです。

 良い面は、会議主催者と参加者双方の意識の変化による時間の短縮です。WEB会議や電話会議が使い慣れない者にとってはまだ居心地悪く感じるものであることもあってか、効率的に会議を進めようという意識が高まり、主催者側が論点の明示など事前の準備に気を配って、会議がスピーディーに進むことが多いように思えます。参加者側も、端的に自分の意思を伝える必要性を強く感じ、発言内容をあらかじめ整理する意識も生まれるようです。

 良くない面は、良い面と裏腹の話ですが、効率性を重んずる余り、普段発言が少ないメンバーの発言を引き出すことがフェーストゥーフェースの会議以上に難しいと思われることです。会議参加者の立場から言えば、これまで、何か言いたげな表情をすれば議長から発言を促してもらえたものが、そのようなことは期待しにくくなり、自ら積極的に発言をしていく必要が生じます。

 在宅勤務は、これまで、子育てなどと両立しやすく働く女性に優しい制度として認識されてきたと思います。企業でこれから幹部として地歩を固めようとしている女性にとっても、その普及は朗報だと言えます。一方で、在宅勤務の中で女性がしなやかに能力を発揮し活躍していくためには、様々な環境変化の中でも自分の意見をしっかり表現し、相手を説得したり部下を指導できるコミュニケーション力がますます求められると感じる今日この頃です。

(21世紀職業財団会長 伊岐典子、機関誌「ダイバーシティ21」2020年夏号より)

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