【随想】

初めてのセカンド・ジェントルマン


 アメリカ大統領選挙の結果が大筋で確定し、大きな波乱がなければ来年には初めての女性副大統領となるカマラ・ハリス氏が就任予定です。彼女は、インドやジャマイカにルーツを持つ初めての副大統領ともなることから、アメリカにおけるダイバーシティの象徴とか、ガラスの天井が一つ破られたとの感想も見られるところです。そして初めてのセカンド・ジェントルマンとなるハリス氏の夫君ダグ・エムホフ氏にも注目が集まっています。

 報道によれば、これまで弁護士としてキャリアを積んできたエムホフ氏は、妻の副大統領就任に伴い、現在の職を辞してそのサポートに専念されるとのことです。大統領に就任予定のバイデン氏の夫人が教育者としての仕事を継続する意向を示していることとも対照的ですし、職業キャリアにおいて各人の自律的な選択を尊重するアメリカにおいても、少々の驚きをもって受け止められているようです。

 しかし考えてみれば、56歳という同氏の年齢を考えると、その選択はこれまで十分キャリアを積んで、一定の成果を上げてきた後のものであるといえますし、弁護士という仕事の性格上も、何年か後にその仕事を再開することがそれほど困難ではないとも思われます。もし、エムホフ氏がもっと若い年代で、キャリアと実績を積み上げている最中に配偶者の仕事によって選択を迫られるのであれば、事情は変わってくるでしょう。

 私がブルネイという国に大使として赴任していた際、その国に駐在する大使のうち7人が女性でしたが、その配偶者の状況は本当に様々でした。配偶者と離別していた私と中国大使は別として、高齢の夫を母国に残して赴任したフランス大使とインドネシア大使がおられた一方で、インド大使の50代の夫君は自国で弁護士活動をする傍ら、年の半分ほどブルネイに来て妻の外交活動を側面援助していましたし、同じく50代と思しきカナダ大使の夫君は、カナダ政府の公職に就きながら在宅勤務制度を活用してほとんどの時間を妻とともにブルネイで過ごしていました。一方、30代で赴任してきたオーストラリア大使の夫君は、大手化学会社を退職して妻の赴任に帯同する判断をしましたが、帰国後のキャリアには大いに不安を持っていると話されていました。30代の女性を大使に任命するようなダイバーシティ先進国のオーストラリアでも、夫婦間のキャリアの調整には苦労が伴うようでした。

 日本では、これまでほぼ一律に転勤や転職など配偶者の仕事上の事情に妻側が合わせる形で、職を辞したり働き方を変えたりしてきました。在宅勤務他様々な雇用管理システムの整備や、中断があってもまた適職に就ける労働市場の整備によって、男性側も女性側も自分のキャリアと配偶者のキャリアを上手に活かせるようなタイムラインが造れる時代が早く来ることを祈りたいと思います。

(21世紀職業財団会長 伊岐典子、機関誌「ダイバーシティ21」2020年冬号より)

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