情報誌「ダイバーシティ21」2021年春号(VOL.44)特集記事(2021/3/25発行、全4ページ)

【鼎談】仕事と介護の両立支援のために知っておくべきポイント(1/4)

●「仕事と介護の両立」と「仕事と育児の両立」の違いを認識する

座間:高齢化が進む中で、すでに多くの企業では仕事と介護の両立支援に着手されているのではないかと思います。特に大企業においては、法律を上回る制度の拡充を進めているところも増えています。一方で、従業員の真のニーズをどう捉えて、どのように反映させていったらよいのか悩まれている企業もあるのではないでしょうか。

佐藤(以下、敬称略):大企業を見ると、ここ何年かで仕事と介護の両立支援は、仕事と子育ての両立支援と同じように重要な取組みであるいう認識に変わってきたと感じています。ただし、残念なのは、制度的な取組みは進んでいるものの、両立支援のあり方に関する理解はまだ十分だとは言えない状況なことです。子育てと介護は、じつは両立や両立支援の仕方が異なるのですが、介護の課題に直面した従業員側も、マネジメント側も、その理解がまだ十分に浸透していないように思うのです。
例えば、法制度では育児休業は子どもが1歳まで、さらに6カ月の延長(再延長で2歳まで)も可能です。企業の中には法制度以上の長い休業を可能にしているところも見られます。つまり、できるだけ本人が子育てにかかわることのできるように支援を行っているのです。一方、介護休業は法制度で93日が上限です。休職期間の延長等、育児と同じように長期間の支援を考える企業もあるようですが、「仕事と介護の両立」と「仕事と育児の両立」には、異なる点が3つあることを理解してほしいと思います。

●介護の課題に直面する前に、必要な情報を研修等で周知

佐藤:まず一つ目が、介護はいつ始まるかどうかを正確に予測できないことです。子育ての場合は、出産予定日から産休、育休開始を想定できます。まわりも、いつ産まれるかを聞いてから必要な支援を準備できます。ですが、“要介護予定日”なんてありません。突然やってくることだってあります。いつ始まるかわからない介護が突然、襲ってきたときに、初めて制度のことを学んでいては間に合いません。介護の課題に直面する前に、仕事と介護の両立に関する基礎的な知識を持っているどうかで、心構えが変わります。ですから、介護では、両立の仕方を事前に従業員に周知する必要があるのです。

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佐藤博樹教授

伊岐:介護は突然始まるというのは、私自身今まさに実感しているところです。私の場合、60を過ぎるまで介護を自分事として想定しないまま仕事を続けていましたが、3年半前、ブルネイから帰国し、公務員を退官してすぐに両親の介護に直面したのです。現在90歳の父が脳梗塞の後遺症でまず要介護認定を受け、間もなく母も心臓の病で倒れて以後要支援になりました。長い間私の子育てをサポートしてくれた元気な両親のイメージがあっただけに、当初は本当にショックを受けました。現在、公的介護サービスを利用しつつ3人で暮らしていますが、少しずつ介護の必要な範囲が広がっています。
 考えてみれば、誰にとっても自分の親がいつか要介護になる可能性は高いのです。年齢階級別の要介護認定者数と、人口に占める認定率(図1)を見ると、90歳以上の女性の78.4%の人が要介護又は要支援に認定されています。男性でも約6割が認定されています。85歳以上90歳未満でも女性は過半数、男性は3分の1と、認定率はとても高いのです。ですから、働く人自身が、親の介護は自分の身にかなり高い確率で起こり得るということを早いうちに自覚して、必要な情報収集をしておくことはもちろん、政府や企業も様々な媒体を通じてこの事実を働く世代に伝えていくことも必要だと思います。


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佐藤:今は寿命が延びて、女性は90代、男性でも80代後半です。ですから、40代の従業員に研修を実施して仕事と介護の両立の課題について意識啓発しようと思っても、親はまだ元気だったりします。「あなたが介護の課題に直面したら」と研修で訴えても、従業員はなかなか自分事とは思ってくれません。

座間:「準備をすると、そういう状況になってしまうような気がする」、「自分の親が介護状態になることを想像したくない」という声は従業員からよく聞いていました。耳を閉ざしてしまう従業員に関心を持ってもらうために、どうしたらいいのかと常に考えていました。

佐藤:自分事だと思ってもらうためにも、従業員への事前の情報提供にも工夫が必要だと思います。例えば、仕事と介護の両立の研修だということを前面には出さずに、「65歳の親がいる従業員のための研修」等、親の状態にかかわらず一律に受けることのできる仕組みにすると、客観的に捉えやすいかもしれません。
 難しい課題ですが、まだ介護の課題に直面していない人にこそ、事前にある程度の知識を持ってもらいたいのです。親がいれば確率的にはみんな同じように介護の課題に直面するのです。そのことをしっかりと理解した上で、会社から発信していくことも必要でしょう。

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