【鼎談】仕事と介護の両立支援のために知っておくべきポイント(4/4)

●柔軟な働き方で、個別性の高い介護に対応できる体制を

佐藤:三つ目の違いは、介護の課題は個別性が非常に高いということです。親に認知症の症状があるかどうか、兄弟姉妹の有無、親と同居・別居等、従業員の状況は一人ひとり異なります。個別性が高いので、親の状態や、兄弟姉妹の支援の有無などのマネジメントを自分でしなければいけないのが基本です。

伊岐:おっしゃる通り、介護には様々な個別の事情が存在しますので、その個別の事情に対応して臨機応変に仕事を休むことのできるシステムをつくることが重要になってきます。2016年の育児介護休業法の改正は、佐藤先生が座長をされた「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」での提言を踏まえた上での改正で、介護の際に起こりうる様々な状況を考慮して、介護休業の3分割が可能になりました。その後、介護休暇の時間単位取得もできるようになりましたね。

佐藤:もちろん、連続した休業が必要なときはあります。例えば、遠方に住む親が要介護認定を受けた場合、家の住宅改修もしなければいけないし、全体の体制が整うまで、1、2カ月間は介護休業の取得が必要でしょう。ただし、その後もずっと介護のために休業を利用し続けると、介護はいつまで続くかわからないし、辞めなければいけない状況に陥ってしまいがちです。
 そういう意味でも、仕事と介護の両立を自分でマネジメントすることが重要です。伊岐さんが言われたように、大事なのは臨機応変に仕事を休むことができるというセーフティネットです。例えば、施設に入っていても、突然、呼び出しがあった時、あるいは、在宅介護で月に1回ケアマネージャーと30~40分話をしなければいけないといった時に、休めるかどうかです。法改正で、介護休暇を時間単位で取得できるようになったことで、半日あるいは数時間あればケアマネージャーとも相談できるようになります。フレキシブルな働き方ができることは、すごく重要だと思います。

伊岐:これは介護に限ったことではないのですが、企業が柔軟な働き方の推進に取り組むことも重要だと思います。コロナ禍の中で、テレワークが急速に進み、それに伴ってフレックスタイム制度も多くの企業で導入されたようです。なかでもコアタイムのないスーパーフレックス制度は、介護者がかなり助かるのではと期待しています。当財団の職員の中にも、まさにその恩恵を受けている人もいます。

佐藤:ただし、在宅勤務が増えたことで気をつけなければいけないのは、自分が家にいるから、今まで使っていたデイサービスの利用を止めて、家で介護ができるだろうという意識になってしまうことです。在宅勤務であっても、直接介護は専門家に任せていいのです。家族は何もしなくていいということではありません。家族がやらなければいけないことがあります。家族が担うのは仕事と介護の両立のマネジメントと、メンタルサポートです。つまり、自分がやることと、専門家にお願いすることをそれぞれしっかり理解すること、これが結構大事なことなのです。

●介護は共通の課題だと認識すれば、お互い様だと思える


伊岐:働く人が介護を抱えることになった時、その負担や困りごとについて自分が抱えている正直な気持ちを、職場の仲間や上司、あるいは人事などに言える仕組みがあると、介護と仕事を両立しやすい環境になるでしょうね。

座間:仕事で期待されなくなると困るので介護を抱えていることを隠したい、個人的なことを会社に言っていいのか、という心配があって、本人が介護を抱えていることを伝えづらいことがあるようです。

佐藤:子育てに関しては、相談できる仕組みが整ってきていると思います。先輩の経験を聞く機会がある会社も多いでしょう。介護の場合はまだそういう機会が少ないし、悩みがあっても言い出しにくい部分があります。でも実際に聞いていてみると、案外話してくれたりするので、介護経験者との交流の機会を設けるのはひとつだ思います。
 ただし、何度も言うように、介護は個別性が高いので、聞いた話の通りにはいかないし、自分で考えなければいけないことも多い。そこも、子育てと違うところだと思います。個別性が高いので、自分でいろいろな専門家から情報を集める必要があります。企業がケアマネージャーと契約して、月に1、2度、従業員が仕事と介護の両立に関して個別に相談できる機会を設けている事例もあります。

座間:管理職の立場からすると、部下の状況を把握することはマネジメントをする上で必要なことなのですが、一方で部下の家庭のことを聞くのはハラスメントになるのではないかといったような心配もあると聞きます。今は年上の部下をもつマネージャーも増えていますし、マネージャーへの情報提供や意識啓発は大切だと感じています。

佐藤:子育ての場合は、いろいろな手続きである程度の情報を得ることができますが、介護の場合は親の介護を抱えているかどうかは、従業員から言ってもらえない限りわかりません。会社は、従業員から介護の課題があると言ってもらわないと情報提供できませんし、上司も同僚もサポートできません。確かに言いにくいという側面があるのは否定しないけれども、親がいれば、従業員にとって介護の課題は、子育て以上に共通の課題だと言えます。育児の場合は、結婚していない人、結婚しても子どもがいない人もいるので、じつは共通の課題にはならない。その点も育児と異なります。
 もう一つ、親の介護というのは従業員本人が選べません。同僚が介護を抱えることになったとしても、その人の責任ではないのです。今は介護を抱えていないかもしれないけれども、自分も将来そうなるかもしれないという共通の課題であることを認識することで、お互い様という意識が芽生え、サポートし合える職場風土が醸成できるのではないかと思います。

座間:これからは定年延長などで70歳まで雇用が継続することも求められていくわけですし、誰もが仕事を辞める前に介護を経験するようになっていくと予測できます。ますますお互い様にならざるを得ない状況です。企業にとっては、より一層、介護の課題にしっかりと向かい合わなければいけないですね。

機関誌「ダイバーシティ21」2021年春号より)


佐藤 博樹 氏 プロフィール
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授
東京生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。雇用職業総合研究所(現、労働政策研究・研修機構)研究員、法政大学経営学部教授、東京大学社会科学研究所教授などを経て、現職。東京大学名誉教授。
<兼職>
内閣府・男女共同参画会議議員、内閣府・ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経産省・新ダイバーシティ経営企業100選運営委員会委員長、ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト共同代表 等
<主な著書>
『人材活用進化論』(単著)、『人事管理入門(第3版)』(共著)、『新しい人事労務管理(第6版)』(共著)、『新訂・介護離職から社員を守る』(共著)、『ダイバーシティ経営と人材活用』(共編著)、『働き方改革の基本』(共著) 等


最初のページに戻る