【随想】
ドラゴンクエストと均等法

新型コロナウィルス感染症の広がりにより、家の中で過ごす時間が増えています。コンピューターゲーム、eスポーツといったジャンルのエンターテインメントが活況を呈し、この分野でビジネスを行うソニーグループなどが過去最高益を出しています。そんな中、長年多くのファンを集めてきた「ドラゴンクエスト」が今年35周年を迎えました。主人公が冒険の旅をしながら様々な敵と戦い経験値を上げ成長していくこのゲームシリーズを楽しんだことがある方も多いのではないかと思います。私自身、ファミコンをテレビにつなげてプレイする最初のバージョンを手始めに、1,2年毎にリリースされる新作を追いかけていた時期があります。
その後もシリーズのソフトが出されるごとに、ゲームの内容、プレイする機器や通信方法が高度化、複雑化し、映像表現も含めて飛躍的に進化を遂げて、今や35年前には考えられなかったようなレベルのゲーム・エンターテインメントになっています。
ところで、このドラゴンクエストが発売された1986年に、男女雇用機会均等法も施行されています。この法律の立案が議論されていた頃の日本は、女性が男性と同じ条件で雇われ、同じレベルの仕事をして同じように昇進するということがほとんど実態として存在していない社会でした。結婚退職制や出産退職制を定める企業も多かったのですが、女性自身も学卒後企業に就職して数年で結婚や出産を理由にやめていきました。当時の労働基準法には、女性だけに時間外労働や休日労働の厳しい規制が設けられてもいました。
そのため、勤続年数の短い女性を男性と同じようにお金や時間をかけて育成していくことは難しい、男性と同じ時間働けない女性を同じ仕事に就けるのは難しい、仕事の経験が足りないまま、男性と同じように昇進させることは難しいというのが経営者側の主張でした。結局、成立した均等法は、雇用の分野の男女の機会均等を理念に掲げながらも、募集・採用、配置・昇進については、差別の禁止でなく努力義務にとどめる内容になりました。当時均等法立案チームの一員だった私は、仕事中何度も上司や同僚と「小さく産んで大きく育てる」と確かめあっていたと記憶します。この法律は、将来必ず改正してすべての男女差別を解消させる立派な法律に発展させるという誓いでもありました。
その後、均等法は2度の大きな改正により雇用の各段階の男女差別を禁じる法律になり、別法ながら女性活躍推進法とその改正もあって、ポジティブ・アクションの枠組みも整備されました。ただ、これらの法律制度が日本の女性活躍を35年前と比べ飛躍的に進化発展させたといえるかというと、ドラゴンクエストの目を見張るような進化に比べてまだまだな気がします。女性が男性と同じように職業キャリアの中で経験値を重ねて成長していける社会の実現にむけ、アンコンシャスバイアスなど手ごわい敵との戦いが必要です。
(21世紀職業財団会長 伊岐典子、機関誌「ダイバーシティ21」2021年夏号より)