均等法パイオニア世代からのメッセージ<第1回>(2/3)

「ボードルームに初めて入ると、真っ黒のスーツの男性ばかり。思わず扉を閉めて帰りたくなりました」

山科さん:オリックス生命に初めての女性執行役員として出向したことは、2つ目の転機になりました。生命保険の業務知識もなく、人も知らない、役員として自分は何をするのだろうということをすごく考えました。自分なりに考えたのは、経営にとって重要なことを判断することと、もうひとつは部下に任せることです。我慢して待つことも必要ですし、ここぞというときには物を言わなければいけない。そういう胆力みたいなものをすごく鍛えられました。女性ということで反発を受けることをある程度覚悟していったのですが、実際はそうではなくて、オリックス生命の社員は、男女は関係なしに、出向元のほうを向くのではなく、オリックス生命のことを真剣に考えてくれるかどうかを見ていたことがわかりました。そうして受け入れてもらって、オリックス生命をいい会社にするために共に仕事ができたのはとてもいい経験でした。

 その4年後の2014年に、オリックスで執行役(オリックスは執行役制度を入れている。)になりました。オリックスとしても女性初の役員だったのですが、一番嬉しかったのは、後輩たちが本当に喜んでくれたことです。後輩たちは、0と1では違うと。「0というのは永遠に0だけれども、1ということは2も3もある。だから1が出たことはすごく嬉しい」と言ってもらえて、すごく励みになりました。トップから辞令をもらったときには、「初めてということで結構いろいろと言われると思うけれども、そんなのは気にせずに臆せず気負わずやってくれればいいから」と言われて、とても気が楽になりました。

――最初にトップがそういうふうに言ってくださるのは、どんなに勇気づけられるかと思います。

山科さん:ありがたかったですね。しかし、今でも憶えているのは、役員会が行われるボードルームに初めて入ったときに、真っ黒のスーツの男性ばかりで、皆知っている顔なのに、思わず扉を閉めて帰りたくなってしまいました。これまでも職場に女性が少ないのは経験してきましたが、女性が1人しかいないという状況は本当に変えなければと思いました。後輩たちが役員になったときに同じ思いはさせたくないなと思いましたね。各社でも女性の役員が出はじめた頃だったので、社外で同じような女性役員の仲間を探して3人で異業種の勉強会を始めました。

「いろいろな人からご恩を受けてここまできているので、次世代の若い人たちにご恩送りをしようと」

――ネットワークをつくることの意義というのは、社長秘書をされていたときの先輩の方からのサジェスチョンでもあるそうですね。

山科さん:秘書をしていたときに、英文翻訳や通訳専門の女性先輩がいて、その先輩に「“ジョブ”と“ワーク”は違うって、わかる?」と言われたのです。「“ジョブ”というのは稼ぐための仕事で、人生をかけてやりたい仕事というのが“ワーク”だと思う。でも、普通は“ワーク”ってわからないから、“ワーク”を探すためにもいろんな仕事を経験したほうがいいわよ」と言われたことが印象に残っています。もちろん、生活するのに仕事は必要ですが、世の中のためとか、自分がやりたいと思うことも大事です。本当は“ジョブ”と“ワーク”が一致するのが一番いいのですが。その先輩も通訳の仕事はジョブだとおっしゃっていました。ワークのほうでは女性同士のネットワークを通じていろいろな活動をされていて、軸がぶれていないのです。私は今までそういう人に出会ったことがなかったので、すごく素敵だなと思ったことも、勉強会を始めたきっかけですね。

 異業種女性勉強会は2014年の8月から始め、今は14社で開催していますが、役員同士だけでなく、役員に上がるパイプラインを太くする必要があると思い、課長級の勉強会をつくりました。能力はあっても、役員が楽しそうに見えなかったら、誰もやりたいとは思いませんよね。責任は重いけれども、やりがいもあるということを伝える場をぜひつくりたいと思いました。社外のネットワークを広げたほうが、利害関係なく本当に生涯の友と出会えるということもあります。現在は部長級のラウンドテーブルも行い、役員とコミュニケーションをとる機会を設けたりもしています。こうした思いが世代を超えてつながっていくといいですね。

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国宝巡りが趣味だという山科さん。「奈良の仏像を見るのが大好き」とのこと。出かけることができない今は夫婦二人で般若心経の写経をして過ごすことも。

 これまでの経験の中でつながったご縁というのはすごくありがたいと感じています。そういうつながりを通して、若手世代のためにサポートできることをやっていけば、道もつながっていくのかなと思っています。ペイ・フォワードという言葉が好きで、自分たちはいろいろな人からご恩を受けてここまできているので、次世代の若い人たちにご恩送りをしようと思い、この活動が広がっていくのも楽しみです。

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