【随想】

「もう」と「まだ」の間で


 ものごとの見え方は、見る視点や角度によって全く異なったものになるというのはよく言われることです。

 例えば、日本の女性活躍の進展状況に対する評価については、ジェンダーギャップ指数が世界120位に甘んじていたり、管理職に占める女性の比率の上昇が遅く、欧米だけでなくASEAN等アジアの国々に比べても見劣りする状況といったことを考えれば、「まだ」進んでいないという見方が圧倒的でしょう。しかし、2011年には1.4%だった上場企業の役員(取締役、監査役)に占める女性の割合は、10年後の今年7.5%まで上昇し、実人数でも585人から3,055人へと5倍以上になっています(東洋経済新報社『役員四季報』による)。こういうデータを見ると、「もう」ここまで来たかという気持ちも少し出てきます。同じペースで等比級数的に増加していけば、2031年には女性比率も優に30%を超え、15,000人ほどの女性役員が上場企業で活躍している計算になります。

 女性の役員が増加しているのは、女性の社外取締役への登用が急速に進んできたことが主たる要因だと思いますが、ここ数年の動きとして、社外役員に限らず、執行役員クラスへの女性の登用事例をかなり目にするようになりましたし、取締役に生え抜きの女性が就く例も出てきました。執行部門での女性役員が増加する流れが明確になってきたことは嬉しい限りです。財団が実施する女性役員育成のための年間プログラム「Next Step Forum」は今年で8期目を迎えていますが、これまでの修了生の中から続々と企業の重要な部門を任される執行役員が誕生しています。

 このことの背景として、投資家の間に、企業経営のサステナビリティを評価するという概念が普及し、ESG(環境、社会、ガバナンス)に着目した投資が重視されるようになったことがあります。中核人材の多様性確保を含むコーポレートガバナンス・コード改訂があったり、株主総会で取締役選任議案の中に女性候補者がいない場合に、執行の責任を持つ代表取締役の選任議案に反対するという方針の機関投資家も増えてきました。国連でもジェンダー平等を含むSDGs(持続的な開発目標)が決議されて企業の努力が求められて以来、各企業は自社において重点的に取り組む内容について統合報告書やサステナビリティ報告書にKPIを示して進捗状況を開示するようになっています。経営者の方々の中には、これまで女性の育成や昇進意欲の喚起に努力してきたが思うように進まず、「もう」これ以上の成果は出ないだろうとあきらめかけていたところ、上記のグローバルな動きの中で、必要に迫られ経営層への登用を意識した女性社員のパイプラインづくりに取り組んでみたら、「まだ」やれることがあると気づかれたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 本誌に概況を掲載しております当財団35周年記念のオンラインシンポジウムでも、日本経団連で「2030年までに役員に占める女性比率を30%以上にする」取組みの先頭に立つ柄澤康喜ダイバーシティ推進委員長が基調講演をしてくださいました。日本の経済も、女性の活躍も「まだ」天井を打っていないと確信しています。

(21世紀職業財団会長 伊岐典子、機関誌「ダイバーシティ21」2021年冬号より)

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