財団設立35周年・均等法施行35年ONLINE SYMPOSIUM

日本のD&I これまでとこれから ―講演抄録―

【趣旨説明】日本のD&I、これまでの歩みと課題(1/2)

伊岐 典子
公益財団法人 21世紀職業財団 会長
◤男女雇用機会均等法の施行と当財団の発足 ◤

 日本のダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)の根元とも言える男女雇用機会均等法(以下、均等法)は35年前にスタートしました。これは1979年に国連で採択された女子差別撤廃条約の批准のための条件整備として、女性に対する差別を禁止する法律が求められたことが契機となったものですが、成立した均等法で実際に禁止されたのは、条約批准の最低条件でもあった定年退職解雇についての女性差別のほか、一部の教育訓練や福利厚生の差別のみでした。女性が企業で活躍するために不可欠な要素である募集、採用、配置及び昇進については均等取扱いの努力義務が規定されたに過ぎませんでした。

 また、労働基準法には緩和されたとはいえ残業や休日労働についての女性保護規定が残されていました。更に、均等法のコンセプトは雇用機会の均等であり、結果の平等を指向するものではないことが強調されていました。そのため、事実上の平等を達成するための積極的是正措置、すなわちポジティブ・アクションは、組み込まれていませんでした。ましてやD&Iといった言葉も概念も、この頃の日本にはありませんでした。しかし、均等法施行をきっかけに、かなりの数の企業が大卒女性にはじめて採用の門戸を開き、企業の主戦力となって男性と同じ条件で働くチャンスをつくったことも事実です。管理職候補層に女性が加わったという意味で、この法施行はD&Iの根元と言えるのではないかと思います。

 当財団が均等法の施行とほぼ同時に発足したのは偶然ではありません。1986年2月に開かれた財団の設立発起人総会では、日本経済団体連合会の前身である経済団体連合会の副会長をはじめ、各産業の経営者団体のトップが名を連ね、4月21日に財団法人女性職業財団が設立されました。財団の設立趣意書には概略次のように書かれています。「男女雇用機会均等法が施行されたことに伴い、企業は同法の趣旨に沿った雇用管理面での対応が求められる。一方、女性労働者を積極的に活用しようとすれば、女性はその持てる資質を企業という組織の中で十分活かしきれているとはいいがたい。これらの問題を解決するためには、産業界全体としても、各企業の経験や有識者の英知を集積して、対応していかなければならない」。この問題意識は、35年後の今日にも通じるものだと思います。

◤女性労働関係法政策の進展 ◤

 残存していた努力義務や女性保護規定の問題は、1999年施行の改正均等法でほぼ解消しました。同時に、差別禁止の法定だけではなかなか事実上の平等に到達しない部分について、ポジティブ・アクションという女性の能力発揮に向けたてこ入れのための規定も新設されました。これは企業への義務付けや努力義務を求めるものではなく、取組みが逆差別として批判を受けないことを明確にした上で、企業の自主的な取組みに対し、国が相談援助を行うことができるというものでした。改正を機に国は様々な情報提供や表彰制度を展開して規定の浸透を図り、1999年は日本のD&Iにとってエポックメーキングな年になりました。そして2007年の改正ではセクシュアルハラスメントの防止等に関する措置義務の新設などの政策的進展がありました。

 一方で、女性差別をなくすという社会正義の観点以外にも、異なる視点から働く女性に関する政策が進展していきました。少子高齢化対策の観点から、1992年施行の育児休業法に始まる育児介護休業法の整備が進められ、ワーク・ライフ・バランスが政府政策の中心に位置づけられるようになりました。2013年頃からは成長戦略という経済的な視点を強く意識した政策が進展し、2016年に女性活躍推進法が施行されました。

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