財団設立35周年・均等法施行35年ONLINE SYMPOSIUM

日本のD&I これまでとこれから ―講演抄録―

【パネルディスカッション】3年後のD&I。加速する為の打ち手を探る(1/2)


左から:野坂氏、小林氏、河合氏、鎌田氏

〈コーディネーター〉

小林 いずみ 氏
 ANAホールディングス(株)社外取締役ほか
 (元メリルリンチ日本証券(株)代表取締役社長)

〈パネリスト〉

鎌田 三保 氏
 日鉄ソリューションズ(株)執行役員 技術本部長委嘱
河合 薫 氏
 健康社会学者(Ph.D.)
野坂 千秋 氏
 味の素(株)取締役 執行役専務(ダイバーシティ・人財担当)
◤日本のD&Iの現状と課題 ◤

小林氏:2015年にコーポレートガバナンス・コードが導入されて以降、特に上場企業における女性活躍についての開示が進んだこともあり、ジェンダーに関する取組みには一定の成果が出てきていると感じています。河合さんは研究者の立場から見て、1986年の男女機会均等法施行以降、そして近年の推進状況について、どのように思われていますでしょうか。

河合氏:フィールドインタビューで現場に入って感じているのは次の3つの視点です。
 1点目は女性活躍推進は非常にゆっくりではあるものの、風が吹いて変わりつつあるということ。かつて多くの企業で一斉に一般職女性を総合職への転換を進める等、無理が生じた部分もあったのか“女性活躍疲れ”の風潮がみえた時期がありました。ですが、労働力の更なる減少により、「会社を支える人材を育てなくては」と経営者側の意識に変化が生じ、これまで女性ばかりがアサインされていたダイバーシティ推進組織に男性担当者が増えるなど、2年ほど前から本気で女性の活躍を推進しようという機運が高まっています。
 2点目は、リーダー的ポジションへの女性登用が多く見られるようになったもののまだ数的には少ないということ。組織の中で紅一点になると、マジョリティ側である男性は無意識のうちに女性を同化させる、あるいは異物として排除し、女性は弱者として扱われることに耐えきれず去っていくということが起こります。つまり、紅一点主義はジェンダー視点においてダイバーシティ推進にはならないのです。それにもかかわらず、未だにこの紅一点登用を続けている企業があるというのは大きな課題だと思います。
 3点目は、女性活躍推進はリーダー的ポジションの女性を増やすことだけではないということ。女性の4割は非正規で働いています。賃金格差や不安定な雇用問題を解決しなければ、何も変わっていかないと思っています。

野坂氏:私もここ数年でゆっくりではありますが、大きく変化してきていると感じています。2016年頃から働き方改革が問われるようになり、当社においても社長自らが本格的な働き方改革の推進を旗振りして長時間労働の削減に取り組みました。本社が率先して終業時間の前倒しや所定労働時間の短縮等を実行、2016年度から2019年度の3年間で平均200時間の総実労働時間の削減という大きな変化となり、その結果、育児中の社員などの働きやすさにもつながりました。
 同時に、D&Iを経営戦略として中期経営計画に盛り込み、トップの宣言から体制づくりや、活動の見える化を進めてきました。具体的な取組みとしては、組織長の後継者候補に女性を加えることをある程度義務化したり、女性自身への意識づけを行うとともに、部門を越えた“斜めのメンター制度”を導入したことなどです。導入から2年半継続し、この制度を利用した女性の約半数が職務のアップグレードを果たし、女性の管理職比率はこの5年で1.5倍に増えています。この数値は過去に比べて顕著な伸びになっています。ただ単に数値を追いかけるのではなく、仕組み・仕掛けづくりが重要で、地道に取り組み続けたことが結果として数値に跳ね返ってきた、そんな実感を持っています。

小林氏:働き方改革のひとつとして長時間労働の削減を掲げ、その一方では労働力が不足している。これは一見、逆のことのように思えますが、長時間労働をなくすことによって、生産性の向上や効率化、または企業活動としての価値創造力が上がったということなのでしょうか。

野坂氏:1人当たりの生産性は数値で見ても明らかに上がりました。それまで同じ時間を使って何をしていたかと思われるかもしれませんが、リモートワークなど様々な仕掛けを組み入れることによって生産性の高い働き方への見直しを図ってきた結果、効率的な業務推進につながったのだと思います。

河合氏:うまくいっている企業は、女性活躍だけ、あるいは長時間労働だけに取り組んでいるわけではなく、D&Iと働き方改革を両輪で進めて、社員一人ひとりが活躍できる制度や仕組みを設けていますね。チーム同士の連携を強化し、無駄な業務が削減されたという企業もあるようです。仕事が早く終わるので、女性が辞めなくてもよい環境になっているのは非常に大きな変化だと思います。

鎌田氏:当社はIT企業ですが、重厚長大なイメージが強いのか、新卒入社者のうち女性は約3割、社員全体の女性比率は2割を切っています。近年、DX(デジタル・トランスフォーメーション)と言わるようになってからは、リソース不足が課題となっています。この5年で男性の育児休暇取得も増えていますが、若い世代にとって魅力のある会社になるためにもD&Iをより推進し、もっと多様性を認める企業文化に変えていく必要があると考えています。


◤経営層に女性を増やすために ◤

小林氏:グローバルに事業を展開している企業の中には、「日本の本部には女性の役員やリーダーが少ないけれども、海外現法、支店では多いですよ」とおっしゃる経営トップの方が結構います。なぜ日本では女性を登用できないのかといつも思うのですが、この辺りは何が原因だと思われますか。

河合氏:多くの日本企業では、下から積み上げていってヒエラルキーを上がっていく仕組みで、会社のトップになったら一丁上がりというところがあります。海外の場合、専門職と管理職は早ければ20代後半から教育が変わっていきます。大学院まで出て、マスターを持っていなければ経営者として認められません。「働く」ことと「学ぶ」ことを、国として両輪でまわしているところが日本と大きく異なる部分です。女性比率の差にも大きく関係しているのではないでしょうか。
 ただし、海外でもすべてが上手くいっているわけではないようです。例えば、ドイツはメルケル首相もいますし、女性の活躍が目立っているような気がしますが、実は日本同様にジェンダー役割が非常に強い国です。そんなドイツが10年以上前から取り組んできたのは、まさに野坂さんの会社でも実行されている時間管理です。併せて、「男性も女性も仕事だけではなく、家庭のことができなければ一人前じゃない」という意識啓発を強制的に進め、パート・正社員で区別することなく同一労働同一賃金を推進してきた結果、数値に現れてきたのだ思います。

野坂氏:当社においても、グローバルに見るとASEAN、欧米、南米、いずれの地域でも従業員の女性比率を超える女性マネジャーがいます。長時間労働はほとんど見られませんし、男性の家事・育児参加も多く見られます。そして社会インフラの整備という点でも日本は遅れている部分があると感じています。

  もうひとつ、女性特有のライフイベントという観点で見ると、日本ではこれまで、しっかり休むための休職制度や勤務時間短縮制度の拡充がなされてきました。その結果、女性のキャリアのブランクを大きくしてしまい、本来であれば仕事を継続してキャリアを積むことができる可能性を抑え過ぎてしまったことが、女性の活躍を遅らせた理由のひとつだと考えています。ですが、リモートワークの拡大をきっかけに、勤務時間を短縮せずに働くことも可能になる仕組みが形成され、誰もが仕事を続けやすい環境になりました。子どものお迎えのために、女性が周囲に気を遣いながら早めに帰るという状況から解放されたことはとても大きな一歩になったと感じています。また、希望する社員に対しキャリアの中断を最小限に抑えて成長の角度を上げていくことにもつながるのではないかと思います。

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