財団設立35周年・均等法施行35年ONLINE SYMPOSIUM

日本のD&I これまでとこれから ―講演抄録―

【パネルディスカッション】3年後のD&I。加速する為の打ち手を探る(2/2)

◤ジェンダー中心のD&Iからの変化 ◤

小林氏:これまで日本におけるD&Iの中心はジェンダーでした。今後は変わっていくと思っているのですが、どのようにお考えですか。

野坂氏:職業観も若い世代の中ではだいぶ変わってきていると感じています。若い世代は男女問わず「この会社で自分の成長実感を持てるかどうか」について我々の世代以上に意識しており、企業としてもこの部分を強化していく必要があると考えています。また、シニアについてもこれまでの経験や知見をどう伝承していけるようにするか、といったことも近々の課題と捉えています。

鎌田氏:いまの若い世代には、あまりジェンダーギャップという意識はないように感じます。当社では、女性固有のライフイベントを理由とする離職はほとんどなく、多くが転職による離職です。終身雇用ではなくなっている状況で、どう組織に帰属意識を持ってもらい、エンゲージメントを高めていくか、という点は企業の課題となってきています。
 また、バブル期世代が60歳を迎えようとしていますが、このボリュームゾーンに今後どのように活躍してもらうかについても企業の方向性と併せて議論している最中です。

河合氏:今まで契約社員だった女性が公募制で40歳を過ぎてから正社員に転換して、転勤の話になった時に、上司はどうしようかと思ったそうですが、逆に、その女性は「別に夫婦が一緒にいる必要もないので、行きます」と、喜んで引き受けたという事例を聞きました。子育てをある程度終えたベテラン社員を活かしていくというのも面白いのではないかなと思いました。

小林氏:私はダイバーシティには2種類あると思っています。ひとつは目に見える違い、例えばジェンダー、障害の有無、国籍等です。もうひとつは目に見えない多様性、つまり個人です。リモートワークが進み、副業を容認する動きも出てきて、何に時間を使うかという生活のプライオリティも変わってきています。一人ひとりの働き方の選択肢があるということが、まさにD&Iの根底にあるのではないかと思っています。

野坂氏:ウィズコロナの中でリモートワークが定着した今、大々的に新入社員の歓迎会を開催するといったこれまでのコミュニケーション手法の枠にはまらない人が増えています。これからは個人の生活を尊重せざるを得ないという状況の中、リアルと組み合わせながら、生産性の向上や良好なコミュニケーションにつなげていくことのほか、世代によっての受け止め方の違いなどを解析し対応する必要性を感じています。

河合氏:いろいろな制度を導入しているにもかかわらず、利用が進まないという課題を抱えている企業もありますが、社員に話を聞いてみると「制度は使いたいけれども、これを使ったら評価されなくなるのでは」、「制度を使って休んだあと、自分が戻る場所があるのだろうか」という声が上がってくるのです。そこには、思っていても言えない状況があるように思います。心理的安全性を高めていかない限り、どんな制度をつくっても誰も使わない制度になってしまうだろうと思います。

鎌田氏:当社では評価制度を根本的に見直さなければいけないと取り組んでいます。下から積み上げて上位職になって、経営者になることだけがキャリアのスタイルではありません。
 私がこの評価制度の見直しに関わった中で思うのは、もっと評価に時間をかけるべきではないかということです。評価する難しさも出てきますが、時間の制約があったとしても専門性を持ってアウトプットできる人は欠くことはできないので、多様な能力を持つ人それぞれが納得のいくかたちで働けるようにすることはひとつの方向性だと考えています。

小林氏:時間で見るのではなく、アウトプットで見ていくという評価制度に変えていこうと舵を切っている企業は増えています。ただし、制度を変えるだけではなく、評価する側を教育しなければ、何をもって評価するのかということがなかなか定着していかないですよね。

鎌田氏:一方、若手世代から悩みとして聞くのは、自分のキャリアパスが見えないとか、モデルケースがほしいという声です。私は働き方が多様化する中で会社はいろいろな選択肢を用意し、そこから何をみつけるかは本人に任せるという形がよいのではないかと思います。実際、当社では社内公募制度の年齢枠を取り払うなど、選択肢の幅を広げる取組みを行っています。働く側も、キャリアを積み上げていくための選択を自身で考えるようになってもらいたいですね。

河合氏:まず私たち自身が、女性に限らず、「ベテランだから」、「シニアだから」、「若手だから」という思い込みに気づかなければなりませんね。私もコラムを書く上で気をつけなくてはいけないと思っているのですが、ぱっと面白い話に食いついて、あたかもみんながそうなんだと伝えてしまいがちですが、実際に現場に行ってみると決してそんなことはなかったりします。若者よりもITスキルの高い中高年層もいますし、ITの苦手な若い世代もいるのです。

◤Win-Win の関係を築いていく段階へ ◤

小林氏:D&Iが女性に限らず、一人ひとりの個人のキャリアを如何に支援して、これまでのように女性に対してだけでなく、実は働く人たちみんながWin-Winの関係を築いていくという段階に入ってきているのではないでしょうか。正直に言ってD&Iというのは、これまで以上に難しいステージに入ってきたのではないかという印象を受けました。

河合氏:私は、難しいところに入ってきたと言えるのは非常に健全になってきた証拠だと思います。みんながイキイキと働けるようにしよう、モチベーションを高めていこうという動きになっているのは良いことだと、前向きに捉えています。
 D&Iを推進していく上で経営層の受け止めは非常に重要です。ある意味、自分たちの負けを認めなくてはいけない場面も出てきて、自分たちが今まで価値を感じていなかったことにも、価値があると思わなくてはいけないかも知れません。

鎌田氏:そういうところに考えが至る企業は、まだ一掴みではないかと思っています。ですから、女性役員30%という目標値も含めて、ある程度の強制力はあったほうが、そこに向けて着実に推進していくことができ、企業文化、さらには世の中の社会の文化を変えていくのではないかと思います。
 D&Iへの取組みというのは難しい面もありますが、実は非常にシンプルな話で、自分の向かいにいる人とどう仕事をしたいか、仕事で自分はどう成長していきたいのか、これを議論していくことが一番重要だと思っています。


河合氏:まさしくその通りで、自分の半径3メートルのD&Iは変えられると思います。ただし、企業という大きな組織が変わるには、私はクオータ制を入れない限り変わらないと思います。「女性部長、女性役員が増えないのは、母数が少ないからね」という話を私は20年聞いてきています。冒頭でもお伝えしましたように、紅一点はゼロイチの功罪で、3割以下ではマイノリティでもなく、個人レベルです。個人でありながら女性の代表として見られてしまう。それは本人にとって良いときもあるでしょう。でも、1回の失敗で足下をすくわれてしまいます。3割になって初めてマイノリティのグループとして認められるようになるのです。ですから、3割という数値は重要です。
 そして4割になって初めて、属性の壁が消えて、意見を聞く耳を持ってもらえるようになります。変化というのはやはり数の力だと思います。ですから本当に経営者がD&Iに取り組みたいと思うならば、真面目にクオータ制を議論していただきたいというのが私の思いです。

野坂氏:生活者には男性だけではなくて、女性もたくさんいますし、高齢者やひとり暮らしの人もいます。食品会社として多様なお客様により良く応えるためには、偏った意思決定層では難しいということはもう分かり切ったことなので、まず3年後には個性の異なる女性たちがマイノリティのままではなく、少なくとも従業員比率に比例して公平に意思決定層に入っていくことに、私自身はこだわって取り組んでいきたいです。

小林氏:2030年までに30%という目標でいいのか、50%目標というぐらいの気持ちでやらないと全然進まないのでは、と個人的には感じています。投資家あるいは社会に対するコミットメントとして重要なKPIでもあるので、これからまだ9年もあるのに30%しか目指さなくていいのですかということについても、みなさんに改めて考えていただきたいと思います。

〜この後、参加者の皆様からの質問に答えていただきました。その一部をご紹介します〜

Q1:製造業で働いています。B to Bの業種のためマーケットに個人の属性による志向性がなく、社員に多様性を導入しても、マーケット拡大というメリットは得られないように思います。このような状況で多様性を導入するメリットがあるのでしょうか。

鎌田氏:当社もB to Bで、製造業向けにもソリューションを展開しており、そういうご意見があることはとてもよく分かります。ですが、むしろ多様な人が多様な意見を出すことで、業務のクオリティが高まり、企業の強さが高まってくると思います。

Q2:女性推進からD&Iへというお話でしたが、担当人員が限られる中やるべき施策面が多様にあり、苦慮しそうです。現実的に幅広く推進するためのヒントがあればお伺いしたいです。

野坂氏:当社では、障害者雇用、LGBTQ、シニアのキャリアサポート等、人事部門に各担当を配置して取り組んでいます。各社の状況の中で、例えば、障害者雇用が喫緊の重要課題ということであれば、そこにフォーカスをするなど、計画的に進めていかれることが重要ではないでしょうか。

小林氏:要するにプライオリティを決めていくということですね。その他、同規模の他社の事例を学ばせてもらい、参考にするのもひとつの手だと思います。

 (機関誌「ダイバーシティ21」2021年冬号VOL.47より)

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