講義内容に関するご質問と回答

この度は、養成講座の講義内容についてご質問をいただきありがとうございます。
質問内容は、質問者からいただいた文章をほぼそのままの形で掲載しております。


「ハラスメントの基礎知識」の講義の内容について


Q1.教材17ページ「ハラスメントのレベル」で、会社に法的責任が発生するハラスメントは非常に限られていますが、会社で処分できるハラスメントはもっと幅広く取れるとのことでした。もっと幅広く定める場合、その基準は会社の判断で決めてよいのでしょうか。
 会社の判断で決めた場合、会社によって処分できるハラスメントのレベルが変わってくると思いますが、それは就業規則に定めていれば、問題ないということでしょうか。

【回答】
 会社で処分を行えるようにするためには、予め就業規則に定める必要がありますが、その基準は会社の判断で決めて構いません。ただ、就業規則の変更は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものでなければならないという要件(労働契約法10条)があり、これらの要件を満たす必要があります。法律違反にならない就業規則になっているかどうかは、事前に社労士・弁護士に確認して下さい。


Q2.P34・35について
・パワハラを受けやすい職種:教員、医療職など
・パワハラを受けやすい労働者の特徴
 職位:派遣社員
 職種:教員、医療職など
 社会的階層:学歴が低いなど
・過去3年間にパワハラを受けた経験:男女とも管理者がトップ
 それぞれに挙げられている労働者の層がバラバラで結局どういう層がパワハラを受けやすいのかうまく整理することができません。この辺りはどのように整理して理解すればよろしいでしょうか。

【回答】
 パワハラの被害者となりやすい労働者の特徴は、大きく分けて①職種(教員、医療職、軍隊系)と②組織内のポジション(派遣社員、学歴の低さ)に分けることができます。

①職種
 パワハラを受けやすい職種は、主にその職種特有の組織風土が影響しています。例えば、ミスが許されない職種である、第三者の目が入りにくい職種である、独特の組織文化がある、等です。こういった職種では、ミスをしない・組織文化に馴染める人が「善」で、ミスが多かったり、組織文化になじめなかったりする人が「悪」というポジションになりやすく、「悪」を排除することを「善」とするパワーが働きます。その結果、一見正当性があるように見える攻撃行為が起こりやすいのです。それらの代表として、教員、医療職、軍隊系をあげています。

②組織内のポジション
 派遣社員や学歴が低い労働者は、組織の中で力のあるポジションになりにくいという性質があります。パワハラは基本的に「パワーを持つ者」から「パワーを持たない者」に対して行われるので、パワーを持たない労働者は必然的に被害者になるリスクが高くなります。
 ただ、近年日本で男女ともに管理職でパワハラ被害を受ける人が多いというのは、実は世界的に見ても異例のことです。日本の場合、管理職といっても、中間管理職に代表されるように、さらに上に上司がいること、プレイイングマネージャーという名前の通り、マネジメント業務だけでなく自分自身の売上等も求められてプレッシャーの高いこと等がパワハラを受けるリスクを高めているのではないかと推測されますが、正確な原因はまだわかっていません。


Q3.P4において
 ILOではハラスメントを法的に禁止しているのに対し、「日本の法律では禁止規定がない」となっています。現状はハラスメント防止のための措置義務を企業に課しているわけですが、ハラスメントを法律で禁止するに至っていない理由は何かあるのでしょうか?

【回答】
 日本では、ハラスメントに限らず、差別そのものを禁止する法律もありません。今回のILO条約においても、日本は賛成票を投じていますが、その内訳は政府(1票)、連合(1票)、経団連(棄権)です。つまり、日本の経営者はハラスメントを法律で禁止することに反対する立場を取っています。これは、労働者保護に偏ると企業活動に制約が生じるのではないか、使用者側に不利益があるのではないかと警戒していることの現れです。
 今後国内で法整備を行う必要がありますが、経団連等の使用者側の納得をいかに得られるかが鍵になると思われます。


Q4.パワハラの定義とその範囲について、質問をいたします。
 対象となる範囲については、求職者もふくまれてるので、まだ雇用関係のない人も範囲に含まれていることがよくわかりました。
 その対象の中に具体的に記載はありませんが、その事業所に常駐している外注(派遣ではない)または、委託業務としての受任者も含まれますか。
 最近は、副業も認められている事業所も増えてきているので、そういう立場の人も今後増えてくることと思います。私自身も雇用関係にはない関係会社で仕事をしていた時に、セクハラ(うるせぇ!ババアと暴言を吐かれたことがあります)の経験があり当時社会保険労務士、弁護士にも相談したのですが、雇用されているわけではないので、使用者責任などは問えないと言われたことがありましたので、お聞きしたく思います。

【回答】
 事業所に常駐している外注(派遣ではない)または、委託業務としての受任者は、厳密には対象となる範囲に含まれていません。ただしセクハラの場合は、男女雇用機会均等法第11条の改正によって、「事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第1項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。」(自社の従業員が他社の従業員にセクハラを行い、その相手先企業から事実確認等の協力を求められた場合は協力しなければならない)と定められました。そのため、外注先の企業(自分が雇用されている事業主)がセクハラをした相手が雇用されている事業主を(調査に非協力であること等に関して)訴えることはありえます。
 ただし、組織に雇われていない個人が事業主を訴えるのは、現時点では難しいと思われます(民法上の不法行為責任を加害者個人に問うことは可能ですが)。パワハラに関しては上記の規定がありませんが、セクハラと同様に、事業主と労働者の責務として、自社または他社の労働者に対してパワハラを行われないように努めることが明記されました。ただ、努力義務であり罰則はありません。


Q5.均等法や労働施策総合推進法における「労働者」の定義について、「事業主が雇用する労働者全て+就活者・応募者」の記載・説明がありましたが、「就活者等」が含まれる旨を明示している物はあるのでしょうか。或いは、過去の就活セクハラ等裁判例からの解釈として理解してよいでしょうか。
 また、その「就活者等を含む」解釈は、個紛法上の「労働者」にも当てはまるのでしょうか。
(「募集及び採用について」を拡張解釈し、就活生に関する事件を、労働局のあっせん事件として取り扱えるのでしょうか。)

【回答】
 就活者・応募者の取扱いに関しては、就活セクハラに関する裁判例を踏まえ、厚生労働省の個別労働紛争解決制度に就活者・応募者からの相談についても取り扱うことが明示され、労働局の総合労働相談コーナーにおいても「学生、就活生からの相談もお受けします」と明示されました(スライド32枚目)。このことから、法律および各ハラスメント指針で労働者として規定されているのはあくまでも雇用関係にある労働者ですが、現場レベルの運用においては、就活生に関する事件も労働局のあっせん事件として取り扱うことが可能だと思われます。


Q6.
5頁:「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」②について、就業規則のない事業場の場合、具体的にどのようなものが望ましいでしょうか。「周知」は、実質的に知りうる状態で良いのでしょうか。

【回答】
 懲戒処分については就業規則に定める必要がありますが、方針の周知に関しては具体的な手段の規定はありません。「従業員が知っている状態」になりうるのであれば、メール送付、ポスター貼付、社内掲示板での案内、研修実施等、どのような方法でも構いません。周知の方法が正しいか(効果的か)どうかを確認すためにも、周知の前後でハラスメントの知識や社内での対応方法に関するアンケートを取って、比較することをおすすめします。周知しているつもりでも全く認知度があがらないのであれば、おそらくその手法が間違っていますので、別の手法を用いる必要があると判断できるからです。

82頁:「集団レベルの因子と個人レベルの因子」について、もう少し詳細に教えていただきたく存じます。

【回答】
 集団レベルの因子=職場においてパワハラが発生していること(部署ごとのパワハラ発生度合い)、個人レベルの因子=個人がパワハラを実際に受けたこと、です。個人がパワハラを受けると、その人が将来メンタルヘルス不調になりやすくなることは容易に想像ができると思います。ただ、ここで見たかったのは、その人自身がパワハラを受けているか(個人レベルの因子)に関係なく、パワハラが発生している職場に勤務していること自体(集団レベルの因子)が、その人の将来のメンタルヘルス不調のなりやすさと関連しているのか、です。結果としては、その人自身がパワハラを受けていなくても、同じ職場にパワハラを受けている人がいると、その人はメンタルヘルス不調になりやすいことがわかりました。このことから、個人の中の経験(個人レベルの因子)だけでなく、職場環境要因(集団レベルの因子)が、従業員の健康を決定していると言えます。


Q7.第1章、アウティングがパワハラに該当する件について
 パワハラの要件の1つに、優越的な関係を背景にして行われることが規定されているかと思います。一方で、アウティングに関しては、必ずしも優越的な関係を背景にせずとも実施されるかと思うのですが、その場合もパワハラと認定されるのでしょうか。それとも、パワハラとは別の認定になるのでしょうか。

【回答】
 確かに、アウティングは優越的な関係を必ずしも背景にしない場合がありますよね。実は「優越的な関係」という表現は法律に定められるときに突然登場した言葉で、それまで厚労省は「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に(※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間などの様々な優位性を背景に行われるものも含まれる)」という表現を使用していました。
 そもそも、いじめやハラスメントというのはパワーのある者からパワーのない者に対して行われるものなので、発生すること自体がそこに力関係があることの証明でもあります。アウティングに関しても、情報を持つ者・その情報を誰にでも伝えることができることがパワーであると仮定できます。「弱みを握られる」という言葉がある通り、秘密を知られると、知られた相手は弱者になりますよね。その秘密を誰にも言って欲しくなければ尚更です。このことから、アウティング行為は優越的な関係を背景にして行われると考えられますし、パワハラ6類型の中の「個の侵害」であると明示されていますので、れっきとしたパワハラです。


Q8.スライドNo.37で「労働者」とは、とのことで説明されていますが、テキスト「誰もがイキイキと働ける職場づくりのために」7pでは、「従業員」とは、になっています。どちらで覚えるのが、適切でしょうか?

【回答】
 法律、及び各ハラスメント指針では基本的に「労働者」と表現されています。「従業員」ですと、基本的に自社で直接雇用される労働者のみを示し、他社から派遣される派遣社員はカウントしないことがあるからです。しかし、一般的な意味で用いる従業員は、「誰かに雇用されている人」という意味合いであり、その場合「労働者」とほぼ同義となります。正式なのはどちらかと言うと、「労働者」の方が適切ではないでしょうか。


「カウンセリングとメンタルヘルス」の講義の内容について


Q1.面談の際の留意点として、ハラスメント加害者に対しては「必ず2名以上でおこなう」(テキスト34ページ、スライド番号68ページ)とご説明下さいましたが、一方で被害者への面談は何名で実施した方がよろしいのでしょうか。講義の流れの中では基本的に1名で実施することを前提でご説明いただいたように受け止めましたが、それでよろしいでしょうか?

【回答】
 専門職による面接でしたら1名でも大丈夫ですが、そうでない場合は、 2名で行うことが理想的です。被害者・面接担当者にとってより安全になるかと思います 。


Q2.P28③安心して相談できる環境・・・
 「あなたの不利益を回復することを支援する窓口です」との記載があります。 ハラスメントの被害者にこのような言葉がけをすることは確かに必要だなと思う一方で、昨今、労働者側の「権利意識の高まり」を受け過剰要求や被害者意識の高いケースでは申告者に問題があるということも想定されるのではないかと。それでもやはり相談窓口としては、上記の「不利益回復支援」を断言する姿勢が望まれるのでしょうか。

【回答】
 被害者が主観的に感じている不利益を回復する、という意味で用いています。最終的には、事案を丁寧に統合的に見立てた上での適切な言葉かけが必要です。 しかし、基本は被害者を救うための姿勢をゆるぎなく相談員が持つことが重要です。そういう姿勢で臨むと、過剰な要求も妥当な要求に変化していくことはよくあることです。
 もし、被害者の方に他の問題がありそうな場合は、専門家と相談しながら進めていくことをお勧めします。


Q3.
1)相談者や行為者との面談において、会話を録音する場合、事前に断るべきなのでしょうか? 断らなくても問題はないでしょうか?

【回答】
 面談の場で録音するのであれば、許可を事前に取ることが原則です。

2)相談者との面談において「傾聴・共感・受容・テンポ・姿勢など」コミュニケーション技法が大事とのことでが、一対一で面談する場合、パソコンで入力しながら聞くというのはしないほうがよいでしょうか?

【回答】
 パソコンを見ている時点で、非言語コミュニケーションのペースが相手と外れてしまいますので信頼関係が築きにくくなります。また、入力をしている音が気になる方もいますので、パソコン入力をしながらの面談は避けたほうがいいです。記録は、相手の表情を確認しながらお話を聞ける手書きをお勧めします。

3)レジュメP34(動画3章の25分あたり)において行為者が「ハラスメントなんてしてません!」と言ってきた場合でも、被害者が生理的にイヤだと感じていたらその時点でセクハラになります。とのことですが、厚労省の冊子P8の「判断基準」の所に「労働者の意に反する性的な言動及び就業環境が害される判断に当たっては、労働者の主観を重視しつつも・・・・一定の客観性が必要です」とも書いてあります。
 つまり、本人がセクハラだと感じていても一定の客観性から見たらセクハラではないということもあるのでしょうか?

【回答】
 主観的基準に加えて、「平均的な労働者の感じ方」というのも判断基準に入っています。しかしながら、本人が性的に不快な思いをしたというのに対して、それは違うでしょう、と見てしまうこと自体がセカンド・ハラスメントになりかねませので、十分に気をつける必要があります。あくまでも本人の主観に沿って判断するのが原則です。但し、平均的な人が感じる感じ方と大幅にずれる事例もゼロではないと思われますので、その際には一人で判断するのではなく、守秘を保った上で複数の人や専門家の意見を聞き判断する必要があります。


Q4.
19頁:「大切な人と死なない約束をする」について、相談時に、希死念慮の予見が見られない場合でもした方が良いでしょうか。「死」というキーワードを出すことにより、相談者が死を意識する契機とならないでしょうか。

【回答】
 人の言葉に影響を受けやすく、こだわりの強そうな方には慎重に言葉を選んでください。けれども、そうでなければ、「鬱になると死にたくなる気持ちが症状として出てくる場合があると言われていますが、その点はどうですか?」と単刀直入にお聞きした方が「死にたくなることがあります」と話してくださることが少なくありません。死にたくなると言われた方は、自殺をしない約束と共に治療を受けていない方は、専門医に診てもらうことを勧めてください。難しい事例の場合は、相談員一人で抱え込むのではなく、専門家と連携をして取り組んでください。

34頁:「就業上の配慮」について、メンタルヘルスからの復職者についても、短時間勤務の配慮は有効でしょうか。復職の判断基準は、原則、従前の業務ができるようになることであり、メンタルの場合は、怪我などと異なり、負担が可視化されない為に、短縮の程度や期間について判断が難しく、導入が困難と感じます。一般的に望ましい目安などありますでしょうか。

【回答】
 確かに復職にあたっての「就業上の配慮」の判断は確かに難しいです。10人いたら10通りのオーダーメイドの復職における配慮を検討する必要があるかと思います。短時間勤務の導入も有効と思われます。本人の意向や主治医の意見をもとに、会社としてできること、できないことを突き合わせて柔軟に判断して対応していくことが必要かと思います。厚労省の手引きによると、職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフなどによるフォローアップを行い、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行うこととなっています。

37頁:「専門機関」について、個人や会社が積み上げて探して行くほかないのでしょうか。或いは、非営利機関や市区町村などにヒントがあるのでしょうか。

【回答】
 専門機関との連携は、それぞれの機関が信頼関係を構築しながら積み上げていく必要があるかと思います。公的機関は、社会資源のリストを持っているかと思います。尚、被害者をどこかの専門機関に紹介する際には、複数の候補からご自身で一番良さそうなところを選んでもらうことが重要です。1カ所しか紹介しないと、後でトラブルになることもあります。例えば、「紹介されたところに行ったらとんでもない思いをした」と言われかねないことも生じることもありますので気をつけてください。必ずご本人に複数の選択肢を与えることが大切です。

54頁:「相談に臨む際の留意点」について、相談者が主張する事実に、毎回相違がある場合について、「前回と異なる」旨伝え、事実を確認することは、セカンドハラスメントになりますでしょうか。どのように、確認をすれば、セカンドハラスメント防止になりますでしょうか。

【回答】
 事実確認をする場合は、前回との違いについてお話を伺うことはセカンドハラスメントには当たりません。但し、責めるような聞き方をしてしまうとセカンドハラスメントになる場合もありますので気をつけてください。
 要は、なぜ、事実の認識が変わってきたかということを、丁寧に相手が責められていると感じないような言い方で、耳を傾けて理由も含めてお話を聴くことが重要です。

57頁:「被害者の意向確認」について、ご経験に基づいた、望ましい時間・回数をご教授いただけますでしょうか。

【回答】
 事案によって異なります。理想的には、出来るだけ少ない回数で有効な面接を行い、早期に解決できるようにすることが求められます。但し、被害者が安心安全感を持って再度、働ける環境を整えられるようにするための面接の回数はケースバイケースで、事案によってかなり異なると思われます。最低2回程度の面談から半年くらいの継続的な面談やフォローアップ面接が必要な場合もあるかと思います。大切なのは、被害者の方が、安心安全感をもって働けるようになるために必要な回数の面接を行うことになりますいると感じないような言い方で、耳を傾けて理由も含めてお話を聴くことが重要です。


「ハラスメントに関する労働法」の講義の内容について


Q1.P24の参考 平均的な労働者の感じ方について
 相談を対応される方も考え方、価値観はそれぞれあると思います。その中で、社内で相談者がパワハラと訴えてきた際に、一般的な労働者の感じ方をどのように判断していのかまたは例として何か具体的な心理的な負荷による評価表みたいな資料等はあるのでしょうか。

【回答】
 ご質問ありがとうございます。ハラスメントにおける「平均的な労働者の感じ方」について、具体的な評価表などが作成されているわけではありません。この点、厚生労働省による「あかるい職場応援団」Webサイトでは、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」という表現を用いており、実務的にご参考になると思われます(引用元:「あかるい職場応援団」Webサイト、「ハラスメント基本情報」の「ハラスメントの定義」より。
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/definition/about)。

 ポイントは、そのような言動を受けたら、一般的に言って受け手はどう感じるのか、これが出発点です。その上で、講義でもお伝えしたように、行為者との関係性、受け手の体調や性格を加味して判断します。例えば、「一般的には、そのような言動を受けても特に問題を感じない」という内容・程度の言動であっても、受け手の体調次第では、非常に深刻に受け止めてしまうなど、大きな支障が生じるといったこともありえます。こうした個別具体的な事情に留意しつつ、基本は「平均的な労働者の感じ方」に置いて判断する、とお考えいただけたらと存じます。


Q2.
4頁:「法的三段論法」の例題について、もう少し具体的な例でご説明いただけないでしょうか。「到底言えない」とする事実関係等を補足いただけますでしょうか。

【回答】
 ご質問ありがとうございます。

 ここでの「合理的な理由」には、一般論として、労働者の能力不足や問題行動が当てはまります。例えば労働者に重大な問題行動があれば、解雇の「合理的な理由」に当たりうるということですね。ですから、そうした理由が何もないにもかかわらず、経営者がほんの気まぐれに従業員を解雇するといった状況であれば、合理的な理由があるとは「到底いえない」と解されます。

8頁:「3労働者と使用者の基本的な関係」について、条文に基づくご説明をいただけないでしょうか。
(1)②について、労働契約の内容は、原則は個別合意(労契法:3条)であるが、合理的な就業規則がその会社にあり、周知されている場合においては、就業規則(労契法:7条)となると理解しておりますが、異なるのでしょうか。
(2)②について、個別合意が最下位にありますが、優位な内容を締結した場合は、個別契約が優先されると考えますが、違うのでしょうか。
 また、「労働者」について、各関連法における定義をご教授いただけますでしょうか。

【回答】
(1)②について:労働契約の内容につきましては、もちろん、個別の合意で定めることが可能です。レジュメにおける「隅から隅まで」という表現の通り、細部まで、労働者と使用者が話し合って内容を決定することが可能です。ただ実務的には、就業規則によって労働契約の内容を決定することが多いといえます。以上にまとめましたように、私もご質問にお書きいただいた内容と同じように理解しております。
(2)②について:まず、ご質問の前段につきまして、お書きいただいた通り、就業規則より労働者に有利な内容を個別合意で定めた場合は、その合意が優先されます(労契法12条等)。ですから、ご理解の通りであると存じます。就業規則と個別合意では、一般には就業規則の定めの方が優先されるものの、個別合意で就業規則よりも有利な内容を定めた場合はいわば例外的に個別合意の方が優先されると整理できますので、レジュメ8頁のように記載いたしました。

 次に、ご質問の後段につきまして、代表的な法律である労基法、労契法、労組法における「労働者」の定義については、それぞれ労基法9条、労契法2条、労組法3条に規定があります。実際には、判例が挙げる具体的な判断要素を考慮しながら判断することになります。詳細については、ぜひ、レジュメ26頁(2)でご紹介している労働法の各テキストをご参照ください。

9頁:「~すれば裁判で負ける」と定めている条文・根拠を具体的にご教授いただけないでしょうか。
 法制定の根幹理由は、裁判に負けることに畏怖の念を生じさせ、規制させるものなのでしょうか。

【回答】
 ここでは、よりわかりやすく説明するために、端的に「~すれば裁判で負ける」という表現を用いております。具体的には、解雇における労契法16条を例として挙げることができます。労契法16条によれば、合理的な理由を欠く解雇を行った使用者は、解雇された労働者が裁判を起こし、解雇の無効を主張した場合、その裁判に負けることになります。このことは、「合理的な理由もなく労働者を解雇すれば裁判で負ける」とまとめることができると存じます。 また、法制定の理由には様々なものが挙げられますが、当事者の行為に影響を与え、適法な(つまり望ましい)方向へ誘導するという、いわゆる「行為規範」として制定するということも、重要な理由の1つと思われます。当事者の行為に影響を与えるものとしては、必ずしも裁判に負けることの畏怖だけでなく、裁判になりうることによる様々なデメリットも複合的に関係してくると思われます。

11頁:均等法が持つ「強行法規+行政取締法規」について、具体的にご教授いただけますでしょうか。

【回答】
 例えば、均等法9条3項に反し、女性労働者の妊娠を理由に解雇を行った場合、その解雇は均等法9条3項を根拠に法的に無効となります。これが均等法の持つ「強行法規」としての性格です。同時に、そのような解雇を行ったことについて労働者から相談等があった場合、労働局は、均等法16条、17条を根拠に、使用者に対し労働局長名で指導等を行うことができます。これが「行政取締法規」としての性格です。このように、均等法は、それに反する解雇等を無効とする強行法規としての性格と、行政が指導等を行う根拠となる行政取締法規としての性格を併せ持っているといえます。

16頁:中小企業については、2022年4月1日より義務化でよろしいでしょうか。(2022年4月1日までは誤植?)

【回答】
 お書きいただいた通り、中小企業への義務化は2022年4月1日からです。この点については、中小企業以外についてはすでに義務化されていることを前提に、それとの対比で、中小企業については2022年4月1日を迎えるまでは努力義務、すなわちその前日の3月31日までは努力義務にとどまり、2022年4月1日から義務化されるという趣旨で記載しております。

19頁:例についての根拠判例を明記いただけないでしょうか。

【回答】
 レジュメ19頁の3つの例は、均等法、育介法に関する基本的な解釈や、いわゆる育介指針(レジュメ18頁)の記述(育介指針の項目十一等)を参考に作成したもので、それぞれ、一対一で対応する特定の判例があるわけではありません。したがって、必ずしも直接的なモデルではありませんが、参考になりうる判例として、ⓐについては医療法人稲門会(いわくら病院)事件・大阪高判平成26・7・18労判1104号71頁(『わかりやすい セクシュアルハラスメント 妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント 新裁判例集』〔以下、新裁判例集〕535頁)、ⓑについては出水商事事件・東京地判平成27・3・13労経速2251号3頁(新裁判例集564頁)、ⓒについては、育児に関する事案ですが、東朋学園事件・最一小判平成15・12・4労判862号14頁(新裁判例集517頁)、社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会事件・東京地判平成27・10・2労判1138号57頁(新裁判例集572頁)等が挙げられると思います。


「裁判例解説とハラスメント事案解決法」の講義の内容について


Q1.コンビニエースほか事件 P501について パワポ21
Y1.Y2には、民法715条の使用者責任として認められたことについて Y1.Y2に対してはその他に会社法429条は当てはまらないのでしょうか。その理由について教えていただけますでしょうか。

【回答】
 Y1は代表取締役ですので、当てはまります。Y2は判決文からは明らかではありませんが、取締役ではなさそう(従業員店長)なので、当てはまらないでしょう。
 ですが、判決では、Y1についても会社法429条の適用は触れられていません。その理由は、原告Xが訴えた際に会社法429条を根拠として主張していないためです(裁判所は、原則として、当事者が主張したことに対しての判断しか示さない。勝手に法令を適用することはありません)。

 ではなぜ原告代理人が会社法429条を主張しなかったかと言うと、本件では、Y1自身が加害者であって、会社法429条を使わなくとも民法709条の不法行為責任を負うことが明らかだったからです。逆に、会社法429条は取締役の職務上の行為による損害賠償責任ですが、本件では、暴行行為が職務上の行為であるかどうかが微妙なケースであったため(なので原告代理人は、会社に対する責任追及も第1次的には使用者責任ですが、予備的に会社法350条を使って請求しています)、あえて請求の根拠にしようと思わなかったのだろうと思います。


Q2.「P9-4-(3)」において、説明では代表取締役としての職務をやっていないとの事での、会社法429条の責任の説明がありますが、これは代表取締役以外の役員の責任も追及される事もあるとの認識でいいでしょうか? 例えば、人事総務担当役員の責任や、他の役員の善管注意義務違反等で損害賠償請求されるなど。

【回答】
 その認識で大丈夫です。会社法429条は、役員等がその職務を行うについて任務懈怠があり、その役員等に悪意・重過失があり、その任務懈怠により(因果関係が必要)第三者に損害が生じた場合に、役員等に対してその賠償責任を認めるものです。役員等とは、取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人を指します。
 なので、パワハラが起きたことや、その事後対応について人事担当役員やその他取締役に任務懈怠があった場合には、責任追及されることがあると考えられます 。


Q3.
79頁:社会福祉法人全国重症心身障碍児(者)を守る会事件判決について、育介法10条ができた為に直接適用している旨はよく理解したのですが、違反し「無効」になるのは何故でしょうか。強行規定だからだと思うのですが、強行法規の見分け方(~してはならない?)はあるのでしょうか。

【回答】
 育介法10条を直接適用して無効と判断するようになったのは、広島中央保険生協最高裁判決が出されてからです。同判決は、均等法9条3項について、強行規定であり、違反する不利益取扱いは違法・無効であると明らかにしました。これにより、同じ法構造を持つ育介法10条についても、強行規定であるとの認識が広まり、ご指摘の判決などにつながったものと思われます。
 レジュメ78頁の最高裁以前の裁判例を見ていただけばわかるように、最高裁判決以前は、育介法10条は強行規定とは考えず、私法的効力のない行政法規であることを前提にして、民法90条の公序良俗違反の限度で違法・無効を認めていました。それを強行法規であると明らかにした点で、最高裁は意義のある判決といえます。

 このように、ひとつの条文が強行法規にあたるかどうかは争いがあるものも多く、最高裁が述べて初めて強行法規と認められることもあるのです。いまだに、強行か任意か、学説上争いのある条文もあったりします。一般的には、「~無効になる」とはっきり明示されているもの、「~してはならない」などと禁止が明示されているものは強行法規のことが多いと言われています。が、厳密には、それぞれが強行法規であるかどうかを、法令解説や裁判例を見て判断していかなければならないですね。


資料7:国・札幌労基署長(紀文フレッシュシステム事件)の労災認定は、現時点で、ハラスメントの事実があった会社責任を認めたのみで、過去にさかのぼって、被害者Xのうつ病による休業補償請求が認められたり、解雇制限抵触が無効になるものではないのでしょうか。

【回答】
 この事件のような取消訴訟は、労基署による労災不支給決定を取り消すもので、遡って支給がなされることになります。紀文フレッシュシステム事件は、療養補償と休業補償の不支給決定の取消が認められたので、遡って療養開始時および休業開始時からの補償請求が認められます。
 また、遡って労災であったことが認められますので、当然解雇制限にも抵触することになり、会社が行った解雇の有効性にも影響があります。解雇が無効であった可能性が高まりますので、労働者側としては、解雇無効を前提として地位確認(職場復帰)もしくは退職金銭和解を会社に求めるのが通常です。