2026年04月01日
ハラスメント防止の基礎
職場におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)
根拠:労働施策総合推進法
根拠:労働施策総合推進法
(1)職場におけるカスハラとは
職場におけるカスハラとは、職場において行われる
①顧客等(※)の言動であって、
②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、
③当該労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの要素全てを満たすものをいいます。
※顧客等:顧客、取引先、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者
②の「社会通念上相当な範囲を超えた言動」か否かの判断に当たっては、様々な要素(※)を総合的に考慮するとともに、「言動の内容」及び「手段や態様」に着目し、総合的に判断することが適当です。「言動の内容」、「手段・態様」の一方のみでも社会通念上許容される範囲を超えた言動となり得ます。典型的な例としては以下のものがあります(個別の事案の状況等によって判断が異なる場合あり)。
※様々な要素:当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、当該言動の行為者との関係性等
<社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型例>
| 【 言動の内容 】 | 【例】 |
| そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求 不当な損害賠償要求 | 性的な要求や労働者のプライバシーに関わる要求 契約内容を著しく超えたサービスの提供の要求 契約金額の著しい減額の要求 商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求 |
| 【 手段 ・ 態様 】 | 【例】 |
| 身体的な攻撃(暴行、傷害等) | 殴る、蹴る、叩く、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける 等 |
| 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言、土下座の強要等) | 店舗の物を壊すことをほのめかす発言やSNS等のインターネット上への悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅す SNS上のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等する 人格を否定するような言動、相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動、土下座の強要、盗撮や無断の撮影、労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、了解を得ずに暴露すること又は労働者が開示することを強要もしくは禁止する 等 |
| 威圧的な言動 | 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧する、反社会的な言動を行う 等 |
| 継続的、執拗な言動 | 同様の質問を執拗に繰り返す 当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立てをする 同様の電子メール等を執拗に繰り返し送り付ける 等 |
| 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) | 長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束する |
(2)カスハラを巡る状況
2017年に「UAゼンセン」が実施した悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査結果を契機に、様々な業界でのカスハラの実態が報道等により注目され、厚生労働省の調査(※)においても、カスハラが労働者の人格や尊厳を侵害し、心身の不調や離職・休職の原因となるとともに、企業にとっても業務妨害や人材の損失等、深刻な影響を与える経営問題となっています。
過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為で被った損害や被害

顧客等からの著しい迷惑行為を受けたことによる心身への影響(経験頻度別)

※資料出所:厚生労働省 令和5年「ハラスメント実態調査報告書」
カスハラは、労働者が一人で抱え込むと被害が深刻化しますので、早期に組織的な対応に移行することが重要です。このため、2020年に策定されたパワハラ指針においては、「7.事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為」に関して、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましく、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が定められました。
つまり、クレーム対応とカスハラ対応は異なるもの。「これは変だ」と感じたら、迷わず上司・管理部門に報告・相談をしましょう。また、対応時には、記録を取るようにしましょう。
その後、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」の策定(2022年)、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」(心理的負荷評価表)の改正(2023年)を経て、2025年6月に労働施策総合推進法が改正され、カスハラ防止措置が事業主に義務付けられるとともに、国、事業主、労働者、顧客等の責務として、カスハラを行ってはならないことや顧客等の言動に起因する問題に対する関心と理解を深めること、他の企業の労働者に対する言動に注意を払うこと等に関する努力義務がそれぞれ定められました(2026年10月施行)。
(3)事業主のカスハラ防止措置義務等
改正法労働施策総合推進法の施行に先立ち、2026年2月、事業主が講じなければならない具体的措置等に関する指針(※)が策定されました(2026年10月1日適用)。
※事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)
事業主は、カスハラを防止するため、以下の措置を講じなければなりません(※)。
㋐事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
㋑相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
㋒事後の迅速かつ適切な対応
㋓職場におけるカスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
㋔相談者等のプライバシーの保護及び相談等を理由とする不利益な取扱いの禁止に関する規定(ルール)の整備と周知等

また、冒頭に述べたように、事業主には労働者の安全配慮義務(労働者の生命、身体、健康を守るために必要な配慮をする義務。労働契約法5条)が課されています。労働者がカスハラを受けた際、事業主が適切なカスハラ防止対策をしていなかったとして、当該労働者から債務不履行責任(安全配慮義務違反)による損害賠償請求を受けないためにも、適切な防止対策を行う必要があります。
なお、雇用する労働者が取引先等企業の労働者にカスハラをした場合、カスハラをした労働者が不法行為として損害賠償責任を追及されるほか、カスハラをした労働者を雇用する事業主も、使用者責任(民法715条)を追及される可能性があることにも留意が必要です。
※カスハラ防止措置とその例
㋐事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
・事業主は、職場におけるカスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発しなければなりません。
・カスハラが発生する原因や背景として考えられる、商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーション上の課題などを解消する取組みを進めることもカスハラ防止の効果を高める上で重要です。
・過去のトラブル事例を振り返り、実効性ある対処の方法を検討し、あらかじめ定めておくとともに、管理監督者を含む労働者に対して、マニュアル、研修、講習等を活用して周知してください。
㋑相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・労働者からの相談に対し、適切かつ柔軟に対応するため、相談窓口を設置し(担当者の指名、相談制度の設置、外部相談機関への委託等)、労働者に周知するとともに、相談窓口担当者と関係部門とが連携できる仕組みづくりや相談マニュアルの作成や研修などを行う必要があります。
㋒事後の迅速かつ適切な対応
・カスハラに係る相談の申出があった場合は、事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処を行わなければなりません。行為者が他の企業の労働者又は他の事業主である場合は、必要に応じて、他の事業主に事実関係の確認へ協力を求めるなど、適切に対応します。
・カスハラの事実確認ができた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うことが必要です。例えば、事案の内容や状況に応じて管理監督者等が被害者に代わって対応する、被害者と行為者を引き離す等の措置を講じるほか、犯罪に該当し得る言動に係る警察への通報や、法的な手続きに関する法務部門等との連携等も考えられます。さらに、再発防止に向けて、周知啓発、研修等を実施してください。
㋓職場におけるカスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
・特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針に定めた対処を行える体制を整備しなければなりません。
・対処の例としては、犯罪に該当し得る言動については警察へ通報すること、行為者に対して警告文を発出すること、法令の制限内において行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしないこと、行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止すること、民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てること、等があります。
㋔ ㋐~㋓までの措置と併せて講ずべき措置(相談者のプライバシーの保護及び相談等を理由とする不利益な取扱いの禁止に関する規定(ルール)の整備と周知等
・相談対応又はカスハラの事後対応に当たっては、相談者等のプライバシー保護するために必要な措置を講じなければなりません。
・例えば、相談者等のプライバシー保護に関するマニュアルの策定と相談窓口対応者の当該マニュアルに基づく対応の実施、相談窓口担当者への研修等を行ってください。また、カスハラの相談をしたことや事実関係の確認等に協力したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発してください。
(4)事業主が努める他の事業主のカスハラ防止措置の実施に関する協力
事業主は、自社の労働者による他企業の労働者へのカスハラにも注意を払うとともに、自社の雇用する労働者が取引先の労働者にハラスメントをした場合に、被害を受けた労働者のいる取引先の事業主から措置を行う上での必要な協力を求められた場合には、応ずるよう努めなければなりません。また、協力の求めがあったことにより、当該企業に不利益な取扱いを行うことは望ましくありません。
事実確認に当たっては、他の事業主からの求めに応じて協力した自社労働者に不利益な取扱いを行わない旨を定め、周知・啓発するとともに、カスハラ行為者に対して必要な懲戒等の措置を講ずることが望まれます。



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