【随想】

マミートラックとマミーのネットワーク


 マミートラックという言葉を耳にしたことがある方は多いと思います。働く女性が、出産や育児を機にキャリアが停滞し、思うように活躍できないようなコースに乗ってしまうことを意味しており、1988年8月にニューヨークタイムズの記事で使われたのが初出と言われています。日本でも、ずいぶん前から人事部門の担当者や研究者の間でその課題は認識されていました。当財団が実施し、本誌にもその概要を掲載している「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」では、このマミートラックの問題を重点の一つとして分析しています。

 マミートラックに陥った場合に、そこから脱出するにはどうしたらいいのでしょうか? この調査結果で見てみると、上司からの働きかけがあったり、自分から上司に要望を伝えるといった、上司との関係も重要ですが、それと同じくらい、時短勤務からフルタイムに、定時退社から残業も可にといった、働き方の変更が脱出の大きな要因になっています。また、夫の育児分担や親族・知人のサポートの増加、外部サービスの導入により自分の育児負担を減らすことも少なからずマミートラックからの脱出に貢献しています。働き方の変更にしろ自分の育児負担を減らすことにしろ、女性自身が自分のキャリアを主体的に考え、様々な情報を入手して自分の取るべき道を能動的に選択し、行動することが必要です。

 情報の入手に関しては、社内に女性のネットワークが築かれている場合、どの時点でフルタイムに戻るとその後のキャリアアップがスムーズになるかとか、夫との育児分担の方法といった、育児とキャリアを両立するための知恵やノウハウを、先輩や同僚の女性から共有してもらうことができます。ずいぶん前のことになりますが、私も小さい子どもがいる時に地方転勤をしたり、残業が続くプロジェクトに参加する際には、勤務先の女性ネットワークからの情報が大いに役立ちました。そのためこのようなネットワーキングは、既に大企業では当たり前になっているのだと思っていました。

 ところが、最近ある大企業の女性幹部の方々と話をしていたところ、法定を超える手厚い育児休業制度等が整備され、女性の働きやすさで上位にランクされているその企業でも、子育てしながら働く女性社員がその経験を通じて得たキャリアアップを含む様々な知識・情報を社内で共有するようなネットワークづくりが進んでいなかったことがわかりました。最近他企業から移ってきた女性幹部の提案によって、その企業ではようやくネットワークづくりが始まり、女性同士が肩の力を抜いて気軽に相談できると大変好評だといいます。

 企業で働く女性にマミートラック問題を乗り越えていただくためにも、ネットワークの力をもっと強調していかなければとあらためて思った次第です。

(21世紀職業財団会長 伊岐典子、機関誌「ダイバーシティ21」2022年春号より)

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