【随想】

「3割」の意味


 女性役員を3割以上にしよう、という政府目標があります。なぜ「3割」なのでしょうか?

 本年6月、政府は、東証プライム上場企業の女性役員比率を、2030年までに30%以上とすること、また、2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める目標を設けました。7月末には、東京証券取引所からも同じ目標が企業行動規範の「望まれる事項」として規定されることが公表されました。プライム企業の女性役員数は2810人(13.3%)と急速に増加してきましたが、3割以上の企業は68社で、まだ全体の3.7%にとどまっています (2023年8月4日付け日本経済新聞より)。

 なぜ「3割」を目標にするのでしょうか。意思決定の場に女性を増やしていく際に、集団の中で存在を無視できない、発言権が確保できるグループになるための分岐点があり、それを超えたグループを「クリティカル・マス(Critical Mass)」と呼びます。その分岐点が30%であるという考え方に基づくものです。もちろん、1人でも2人でも存在意義はあると思うのですが、極端に少ない割合の場合、女性の意見が通りにくく象徴的存在にとどまってしまう場合も多いと言われています。

 国際社会においては、1990年の「国連ナイロビ将来戦略勧告」において、指導的地位における女性割合を30%にするという目標が合意されました。日本でも、2003 年に「指導的地位に就く女性の割合が2020年までに少なくとも30%となることを期待する」という政府の目標が掲げられました。それから20年、政治の世界でも経済の世界でもいまだにこの目標は達成できていません。

 日本の目標は罰則のない努力目標ですが、欧米では罰則を伴うクオータ制を導入した国も増えてきています。フランスは、憲法を改正して2011年に取締役クオータ法 を制定、ドイツでは、2015年に監査役会にクオータ制を導入しています。役員女性比率はフランスで45.3%、ドイツで36.0%などと既に3割を大幅に上回っています。米国カリフォルニア州でも、2018年に取締役クオータ制を州法で導入しました。

 女性役員を増やし、多様性を高めることは、企業にとって投資家へのアピールとなるだけでなく、さまざまなダイバーシティ効果が得られます。私も社外役員を務めて おりますが、女性社外役員はしがらみにとらわれず積極的に発言する人が多く、男性も含めて議論の多角化、活性化につながる、社内の女性への影響も期待できるなどのメリットもあると感じています。

 21世紀職業財団では、女性役員育成に向けて年間プログラム「Next Step Forum」を運営していますが、先日、10周年記念の卒業生の会が開かれました。プログラム卒業生の方々が、執行役員ほか重要な職に就いて活躍されていらっしゃることを頼もしく感じました。女性役員の増加に向け、パイプラインを作って育成することの効果を感じていただいている企業の方も多いのではないでしょうか。「3割」への道も見えてきた気がします。

(21世紀職業財団会長 定塚由美子、機関誌「ダイバーシティ21」2023年秋号より)

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