【随想】
アメリカのDEIはどこへ行く?

トランプ大統領は、就任以来、バイデン前政権下で進められたDEI(Diversity, Equity & Inclusion)政策を次々と覆しています。政府の関連部署を閉鎖し、政府の契約業者に採用機会平等確保のために積極的措置を求める大統領令11246号を廃止するなど、米国内に大きな影響を与えています。
米国内の一部の企業は、すでに昨年から保守運動家の攻撃の標的とされ、DEIの取組みを後退させる事例も生じていたところです。
このようなDEIへの攻撃はなぜ起こったのでしょうか?
米国のメディアによれば、最近のDEIの推進は2020年の警察官による黒人男性殺害事件を契機として人種的不公平への反発が広がっていたことに対応したものだそうです。しかし、その後、反ESG(環境・社会・企業統治)の動きが出てくる中で、保守運動家によるDEIへの攻撃も始まりました。また、マイノリティは能力がなくても昇進できる、公平でないというDEIへの誤解に基づく批判が出てきたこともあるようです。
今回のトランプ大統領の動きにより、米国でのDEI推進の方向性が中長期的に変わるとは考えていません。米国では1960年代から人種や性別による差別撤廃運動が高まりましたが、それ以降、推進と揺り戻し(バックラッシュ)を交互に経験してきています。短期的には政治情勢等により揺り戻しがあっても中期的には推進の方向性は揺るがないでしょう。また、経営で成功するためには多様性が不可欠だと考えている企業も多いはずです。
日本への影響はどうでしょうか?
日本のDEIの中心は人種ではなく女性活躍ですが、そもそも米国と日本の女性活躍の現状には大きな差があります。ジェンダー・ギャップ指数は、米国は43位、日本は118位、管理的職業従事者の女性割合は、米国42.6%、日本14.6%。日本はまだまだ女性の能力を生かせていないし、その意味ではバックラッシュが起こるようなレベルにすら至っていないのが実情です。
また、日本は急速な少子化、人口減少に直面しており、性別を問わずすべての人の力を引き出していかなければ、日本の未来も企業の未来もありません。
ただ、DEI推進に当たっては、企業経営とすべての従業員のために役立つものだということは十分周知しながら進めることが大切だと感じています。能力のない女性に下駄を履かせて昇進させているという誤解や批判が出るのは困ります。男性が中心であった企業の風土を変え、女性を含む時間制約社員が活躍できる職場環境をつくることが、すべての社員の働きやすさ、働きがいにもつながることを周知しつつ、DEI推進が経営のために不可欠であることを皆に理解してもらいながら進めることが重要でしょう。
(21世紀職業財団会長 定塚由美子、情報誌「ダイバーシティ21」2025年冬号より)