【スーパーバイザーコラム】ハラスメント対応A to Z《第7回》

「廊下で立ってなさい!」の効能

 教室でけんかしたら、バケツをもって廊下に立たされる。今や、昭和アニメの中でしか見られなくなった光景ですが、アンガーマネジメントの観点から考えると、あながち的外れなアプローチではなかったことがわかります。

 ここまで、自分のアンガースイッチが押される傾向や(①)、気持ちが揺さぶられた時に気づくポイント(②)を見てきました。今回はどうやって切り替えて冷静になるか(③)を考えましょう。

 

 英語ではtime outという表現を良く使います。いわゆる、スポーツの試合中の「タイム」のことです。タイムだけだと、流れをいったん止める、というイメージですが、それに「アウト」が付くことで、一時退避のニュアンスが加わります。上述の、つまみ出されるような意味合いでも用いられる表現です。強制的に場外に引っ張り出されて、「頭を冷やせ」と言われるところまでを含めて、タイムアウトと言ってよいでしょう。

 前回紹介したように、人間の認知と感情と身体と行動は、密接に関連しあっています。これは原始時代に野生動物と共存していたころのわれわれの祖先の名残です。野山を歩いている時に猛獣に遭遇して(認知)恐怖を感じたら(感情)、心拍数を上げて全身に酸素をいきわたらせ(身体)、闘うなり逃げるなり全力でアクションを起こす(行動)、という一連の作用は、わたしたちのDNAに染みついています。身体的に不利な猛獣との闘いは、初動が勝敗を分けますから、とにかくこの連鎖反応をものすごい勢いで起動させて、火事場の馬鹿力を発揮しなければ生き延びられなかったでしょう。裏返すと、この能力に長けた個体の子孫がわたしたちだともいえます。

 この連鎖反応は、転がる雪玉や石炭をくべられた蒸気機関車のように、ミッション(相手を倒すか、逃げ延びる)を完遂するまでどんどんパワーアップします。その一方で、早い段階であれば、案外、軌道修正してクールダウンすることもできるのです。そのためには、自覚やコントロールが難しい認知や感情ではなく、身体と行動への次のようなアプローチが有効です。

 □ いったん手を止めましょう
 □ リラックスしましょう
     ➤数回ゆっくりと深呼吸しましょう
     ➤10、または100数えましょう
     ➤水を飲みましょう
 □ 必要であればその場を離れましょう
 □ ちょっと散歩しましょう

 身体と行動に働きかけると、認知や感情も影響されて、ヒートアップしていた連鎖反応が断ち切られます。とはいえ、取っ組み合いになってからでは、場所を変えたり別のタスクを与えられたりしないと、そうそう冷静にはなれないでしょう。

 連鎖反応に「待った」をかけるタイミングによって、切り替えに要するエネルギーや刺激は変わってきます。気持ちの変化への気づきを高めつつ、自分なりのタイムアウトのテクニックを工夫してみましょう。

(スーパーバイザー八木亜紀子、2022/3/8掲載)

 

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