【スーパーバイザーコラム】ハラスメント対応A to Z《第12回》

言葉にする重要性

 チームでの活動には、役割分担が明確であることが重要です。「ここから先はできないけれど、ここまではできます」という線引きがはっきりして、かつ共有されていると、チームとしての機能は向上します。この線引きのことを、英語ではlimit settingと言い、日本語では限界設定と紹介されます。ただ「限界」と言うと、「がんばったけどもう無理!」という、ギリギリかそれ以上をイメージするかもしれないので、「限度」ぐらいで考える方が、特に職場でのコミュニケーションでは現実的でしょう。

 日本社会はもともと、コミュニケーションにおいて前後からくみ取ったり共有体験から察したりする、文脈(コンテクスト)への依存度が高いハイ(高)コンテクスト文化です。ハイコンテクストのコミュニケーションは、お互いに相手の意図を慮りあうことでなんとなく成立し、そこには忖度が求められます。それに対し、欧米文化に多く見られるロー(低)コンテクストのコミュニケーションは、共有体験などに頼らず、あくまで言語で情報をやり取りしようとします。 職場で、「これはできます、これはできません」と細かく言う人は、理屈っぽい、水くさい、と敬遠されてしまうかもしれません。反対に、言われたこと以上に何かしてくれる人は、気が利く、と評判が上がることもあるでしょう。お互いのことがなんとなくわかっている(とそれぞれが思っている)ハイコンテクストの職場の場合は、いちいち細かく言わないことが好まれる傾向が強くなります。

 しかし、最近の労働市場の変化を考えると、ハイコンテクストなコミュニケーションは通用しなくなりつつあると考えられます。机を並べて同じように仕事をしていても、それぞれの背景や社会経験、価値観が異なるので、「言わなくてもわかる」ことはさらに減っていくでしょう。今後、日本の職場でも、言葉で情報をやり取りする、ローコンテクストなコミュニケーションの必要性が増すと考えられます。

 自分の限度を言葉ではっきりと伝えることは、アサーションの基本です。とはいえ、一方的に「○○できない」と主張して突き放したのでは、アサーションのそもそもの目的である、相手を交渉のテーブルに着けることができません。「○○ならできます」という代案を提示して、交渉したい気持ちがあることを相手に伝えましょう。

 「今日は6時までなら残業できます」と伝えたのに、結局6時半までやってしまった、となると、せっかくの交渉が前提から覆されてしまいます。「これ以上は譲れない」という限度をしっかり自覚した上で、交渉に臨むようにしましょう。

(スーパーバイザー八木亜紀子、2023/1/31掲載)

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