【スーパーバイザーコラム】ハラスメント対応A to Z《第23回》

外部者の攻撃から従業員を守るには④

 カスハラ、中でも不特定多数の顧客を相手にするBtoCの業態で発生するものは、自然災害のようにいつ起きるかわからず、規模も予測できません。被害を受けた従業員の中には、ショックで茫然自失となる人も出るでしょう。そのような時に、職場としてどのような対応が求められるでしょうか。

 東京都産業労働局は、カスハラを受けた従業員のケアについて、相談体制の整備に加えて、現場上司による対応を挙げていますi)。とはいえ、上司としてはどこまで踏み込めばよいか、どの程度本人を尊重すれば良いのか、悩ましいところです。

 そこで参考にしていただきたいのが、対人援助の場面で行われる「危機介入」の考え方ですii)。「危機」とは読んで字のごとく、「危険」な「機会」で、本来のバランスが崩れた非常事態のことです。通常の対応が適切でない、切迫した状況では、次のようなアプローチが望ましいとされます。

①今、ここに注目する
 「いつものあなたならこの程度のこと平気でしょう」「もっと大変なことも乗り越えてきたじゃないか」と、上司としては励ましたくなる気持ちは容易に想像できます。大ごとにして本人を傷つけたくない、という心配もあるかもしれません。しかし、目の前の部下の様子がいつもと違っていたら、あるいは明らかに理不尽な攻撃を受けていたら、まずはその事態を受け止めて、事実ベースで対処しましょう。

②指示は直接的、具体的、簡潔に
 通常、職場でのやり取りはお互いの自主性を尊重しつつ、意見を出し合って交渉を進めることが望まれます。しかし非常事態では、「どうしたい?」といったオープンクエスチョンは、聞かれた相手をかえって混乱させかねません。「辛そうなので、一旦休憩してもらって、今日は早退してください。」のように、端的に指示を出す方が、言われた相手の負担を減らせる可能性があります。

③期間限定である
 危険な状態であっても、それが恒常化すると危機とは言えません。例えば、長期化した戦争は危険ではありますが、危機とは呼べません。つまり、危機は期限付きなのです。②で提案したアプローチは、本来職場に望ましいコミュニケーションには逆行しています。あくまで、危機的状況における応急処置だということを忘れないでください。
 仮に、時間が経っても②のような関わりを持ってしまうのであれば、上司にも部下にも、カウンセリングやコンサルテーションなど、専門家による支援を検討する必要があるかもしれません。

④自分の上司に報告・相談する
 危機に遭遇した場合は速やかに上司に報告し、組織として対応できるよう相談しましょう。上司が部下に代わって対応した結果、上司もハラスメント被害を受けることもあり得ます。危機対応の際は通常以上に、自分だけで何とかしようと抱え込まずに組織内で共有して、上司自身のケアも含めた体系的な対応を心がけましょう。

(スーパーバイザー八木亜紀子、2025/1/20掲載)


i) TOKYOノーハラ企業支援ナビ 動画コンテンツ(東京都産業労働局)
(動画)ハラスメント防止対策「カスタマーハラスメントを受けた従業員のケアについて学ぶ」(YouTube東京都公式チャンネル)
(動画)ハラスメント防止対策「カスタマーハラスメントから従業員を守ろう」(YouTube東京都公式チャンネル)

ii) 危機・理論とソーシャルワーク治療(アメリカ心理学会)
Regehr, C. (2011). Crisis theory and social work treatment. In F. J. Turner (Ed.), Social work treatment: Interlocking theoretical approaches (5th ed., pp. 134–143). Oxford University Press.

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