【スーパーバイザーコラム】ハラスメント対応A to Z《第24回》
改善につなげるための指摘
「あなたがハラスメントをしていると通報がありましたので厳重注意します。でも詳細は話せません」と突然聞かされて、申し開きのチャンスもなかったら。今どきそんなバカなことはない、と思いたいですが、これに近い話は現場では案外起きています。
詳細を知らされない理由としては、被害者を守りたい場合だけでなく、加害者を守りたい(もしくは責めたくない)場合が考えられます。どちらも、社内のガバナンスが効いておらず、情報管理が十分でない様子が想像できます。
加害者が替えの利かない業務を担っていて下手に懲戒処分して辞めると言い出されたり、通報者探しをされたりしては困る、でも他の従業員の手前、そのまま放置というわけにもいかずとりあえず厳重注意する、ということになると、加害者は自分のどこをどう直せばいいのかわかりません。組織や周囲に対して疑心暗鬼になって、さらにハラスメント行為を繰り返すことも考えられます。
ハラスメント行為に対する適正な処分は、加害者への最後通告では無く、セカンドチャンスであるべきです。そのため、何がどう問題だったのか、組織としてどう変わってほしいのか、加害者に具体的に示すことが必要です。
EAP(従業員支援プログラム)には、建設的直面化というテクニックがありますi)。まず直面化とは、本人が気づいていない(と思われる)自分の態度や見解、行動面に現れている食い違いを指摘し、気づかせることを言います。建設的に直面化することで、本人に問題行動の重大性に気づかせ、行動レベルの改善の動機付けを行うことを目指します。
批判や個人攻撃にせず、建設的直面化を行うには、指摘がピンポイントかつ具体的な行動に基づいていることが重要です。「だいたいいつもあなたは…」と話が大きくなると、指摘するほうもされるほうも感情的になりがちです。ライフスタイルや性格を問題にすると、指摘された方には人格否定に映りかねません。具体的な事象に話を絞れば、本人にも問題解決の方向が明確になり、行動改善の必要性が意識しやすくなるでしょう。
なお直面化には本人にとって受け入れがたい事実を取り上げますので、心理的サポートが不可欠です。本人に共感を示すこと、追い込まないこと、本人が信頼している人の協力を得ること、行動改善について丁寧にフォローすることを意識しましょう。
(スーパーバイザー八木亜紀子、2025/3/31掲載)
i) 八木亜紀子編著「事例で理解する相談援助のキーワード 現場実践への手引き」 中央法規出版 2019
高い専門性と豊富な経験を持つプロの相談員によるハラスメント相談窓口。様々なハラスメントに関する貴社従業員からの相談をお受けします。
相談対応のスキルを身につけていただく「ハラスメント相談担当者セミナー」を定期的に開催。経験やスキルに合わせたコース別のプログラムで効果的に学ぶことができます。
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