【スーパーバイザーコラム】ハラスメント対応A to Z《第21回》

外部者の攻撃から従業員を守るには②

 カスハラについての意識が高まるとともに、よく引き合いに出されるのが「お客様は神様です」という三波春夫さんのフレーズの真意です。三波さんのオフィシャルサイト1)によれば、ご本人は、歌う時にはあたかも神前で祈る時のように、雑念を払って澄み切ったこころで歌わなければ完璧な姿は見せられない、だから聴衆を神様と見て歌うのだ、と語られています。「お客様は神様なんだから、もっと○○しろよ」などと無理な要求をすることは、元の言葉の意図から外れていることがわかります。また三波さんは、このフレーズの誤った解釈が広まった背景には「人間尊重の心が薄れたこと」があったからではないか、と言われています。

 日本労働組合総連合会が2022年に行った調査2)では、コロナ禍以降、職場でカスハラを受けたことのある人の割合は13.5%で、パワハラの23.3%に次いで多く、セクハラの8.1%を大きく上回りました。それだけカスハラが社会問題化していると言えますが、前回も触れたように、企業のカスハラ対策はまだまだこれからです。

 カスハラ対策の難しさは、厚生労働省が2022年に発表した「カスタマーハラスメント対策マニュアル」の中でも挙げられています3)。組織内で発生するハラスメントであれば、未然防止が行いやすく、加害者に対しての対応も取りやすいですが、顧客からの嫌がらせとなると未然防止は極めて困難です(図)。そのため、まず組織は、カスハラを許さないという方針を明確にし、従業員を守る姿勢を示すことが重要です。さらに、カスハラが発生した場合の対策として、被害者に対しては相談窓口を整備して、速やかに対応できる体制を整えることが望まれます。また加害者に対して、出入り禁止や行為の差し止めなどの直接的な対処を行うには利用規約や提携約款などが必要になる場合もあります。

 東京都は全国で初めて、カスタマーハラスメント防止条例制定を目指していますが、その中では「顧客等と働く全ての人とが対等な立場に立って、互いに尊重し合う都市を作り上げる」ことを謳っています。カスハラ問題をきっかけに、三波春夫さんが危惧された世の中の変化を受け止め、改めて誰もが働きやすい社会を作っていくことが望まれているのです。

<図>カスタマーハラスメントと企業内でのハラスメントの違い

出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

1) 三波春夫オフィシャルサイト
 https://www.minamiharuo.jp/profile/index2.html
2) 日本労働組合総連合会「コロナ禍における職業生活のストレスに関する調査2022」
 https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20221208.pdf?19
3) 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

(スーパーバイザー八木亜紀子、2024/9/30掲載)

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