【スーパーバイザーコラム】ハラスメント対応A to Z《第26回》

相談業務にあたる皆さんへ

 26回目のAtoZコラムは、Zayuu(座右)の銘として、ハラスメント窓口担当者に実践していただきたい、4つの「ない」をご紹介します。

1.抱え込まない

 ハラスメント相談窓口に相談に来る人たちは、すでにどこかに話をして、ある程度気持ちや事実関係の整理がついていることもあります。しかし、思い詰めて、会社を辞める覚悟でやっと連絡をしてきて、他人に話すのは初めて、という人も多いのです。担当者が一度聞いただけでは全容が把握しきれなかったり、当初の想定以上に背景や状況が複雑だったりすることもあるでしょう。また、事態が非常に深刻で緊急性が高く、現場では判断できない場合もあるかもしれません。

 ハラスメントは個人間の問題ではなく、組織の問題です。自分ひとりでなんとかしようとせず、報連相を徹底して、社内での適正な情報共有を心がけましょう。

2.持ち越さない

 感情労働は、アメリカの社会学者のホックシールドによって提唱された概念で、職務を遂行するにあたって感情表現が要求される労働を指します 。医療や福祉、対人サービスなど感情労働を要求される職場では、頑張りすぎて心がポキッと折れる、あるいは気づくと抜け殻のようになっている、バーンアウト(燃え尽き症候群)が多く見られます。人助けのトレーニングを受けた専門職でも燃え尽きるぐらいですから、相談の専門家ではない窓口担当者が相談を聞き続けるリスクがいかに高いかは想像がつくでしょう。

 燃え尽きの兆候には個人差がありますが、目安として意識していただきたいのが、オンオフがしっかり切り替えられているか、です。仕事以外の時間に「こうすれば良かった」「あれを聞けばよかった」と相談のことが気になって頭から離れないようであれば、それは燃え尽きのサインです。すみやかに上司に相談して、何らかの対策を取ってください。

3.過信しない

 相談を聞く仕事をしていると、だんだんちょっとしたことでは驚かなくなります。面の皮が厚くなった、心臓に毛が生えた、と、修羅場を潜り抜けてきた勲章のように、自虐的に言うこともよくあります。しかし経験を積んで、過剰に反応しなくなったからといって、そもそものダメージ自体が小さくなっているわけでは決してありません。今まで大丈夫だったのだから今回も大丈夫、とか、このケースは自分にしか対応できない、とご自分を過信しないことです。何より、自分の状況を見極められないと、周りを思いやることも難しくなり、結果としてチームが力を発揮できなくなります。

 とはいえ、1.~3.はその性質上、一人で気づいて実践することは非常に難しいでしょう。できればスーパービジョンなど、評価に直接かかわらない第三者の助言を受けることが望まれますが、組織によっては部外者の協力を仰ぐことは難しいかもしれません。

 そこで、以下の4.を参考にしてください。

4.遠慮しない

 NIOSH(アメリカ国立労働衛生安全研究所)の職業性ストレスモデル では、緩衝要因(周囲がどれだけ声掛けするか)が本人のストレス耐性に大きく影響する、と示されています。裏返すと、周りに相談したほうが、自分が頑張れる、ということです。個人情報の取り扱いについては細心の注意を払うことが求められますが、遠慮せず、周囲の助けをうまく活用して、相談業務にあたってください。

 ご自分の上司や事案対応の責任者への報告はもちろんですが、他の相談員や産業医保健師などの産業保健スタッフに相談しましょう。同僚や家族などと仕事に関係ないアクティビティをして過ごすことも効果的ですが、相談内容を自分だけにとどめているとうっかり話してしまうことも起きがちです。まずは1.~3.を徹底して、うまく緩衝要因を活用し、業務にあたってください。

i Hochschild, Arlie Russell (1983). The managed heart : commercialization of human feeling. Berkeley: University of California Press. ISBN 0520054547.
ii 厚生労働省「こころの耳」 https://kokoro.mhlw.go.jp/selfcare/

(スーパーバイザー八木亜紀子、2025/8/25掲載)

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